理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第17章6(脱出! そして…)

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「ありがとう、確認完了だ!」
 学の声に続いて起こった叫声は、この切迫した状態から回避するため、まさに救いの声だった。
 嬉々とした大介の声は、学と須賀に計画の成功を悟らせる。

「逃げます! 専務!」

 須賀は気持ちを入れ替え、瞬時に対応し、追求と攻撃から身をひるがえす。
 学の存在をさらい取り、あらかじめ作ってあった別ルートで追手から姿をくらます。
 ルートを塞いでネットワークを遮断し脱出をすると、須賀は思わず「よし!」と叫んで握りこぶしを作った。
 勢いのあまりその拳でキーボードを叩いてしまいそうになるが、それを抑え、彼は大きく息を吐きながら椅子の背もたれに身体を投げる。
 学も深く息を吐いて、ゆっくりと椅子から立ち上がった。
 上目使いに視線を向けた須賀と、学の視線が出会う。ふたりは特に言葉をかけ合うこともなかったが、感じ得ているものは同じらしく、互いに満足げな笑みを浮かべあったのだ。

 そんな学の背を大介がポンッと叩く。それほど強い力ではなかったが、少々脱力気味だった学はわずかによろけてしまい、大介にクスリと小さく笑われてしまった。
「室長……、文献は……」
 最終確認をしたもので間違いはなかったのか、学は改めて問おうとする。すると大介は再び、今度は少し力を入れて、学の背をバンバンっと叩き嬉しげな声を出した。
「カッコ良かったなぁ、学君! 美春に見せてやりたかったよ!」
 他の者になら「俺がカッコイイのは当たり前だろう」などと冗談めかして応えることもできるのだが、やはり大介に対してはそんな言葉を出す考えも出てこない。それどころか、「カッコ良かった」と褒められ、なぜか照れてしまった。
「そうだそうだ、これは是非とも美春に自慢しないとな。僕だけ学君のカッコ良い姿を見たなんて言ったら、悔しがるぞー」
 可愛い娘をいじるための算段を組む大介。楽しい話に学や須賀の表情も和むが、すぐに場は現実に戻る。
「悔しがらせるためにも、……頼むよ、学君。……美春を」
 大介が学の活躍を話して自慢するには、美春を連れ戻さなくてはならない。だがそのことに迷いの欠片もなくなった学は、英明(えいめい)な瞳に決意を込めた。
「もちろんですよ。待っていてください。――お父さん」
 大介は満足そうに大きく頷き、人の良い笑顔を今度は須賀へ向ける。
「須賀君もありがとう。本当に凄いね。君の活躍も是非、美春に自慢しようと思う」
「あ、いえ、……あ、ありがとうございます」
 褒められて照れてしまうのは学だけではないようだ。

 これからが更に楽しみになる若者ふたりに心を和ませ、大介は学へ向き直る。
「学君、僕はこれから一に連絡を取る。そしてそのまま、病院へ向かうよ」
「病院へ……」
「待っていてくれ、明日、明後日には、またさくらさんに頭を撫でてもらえるようになるよ」
「えっ!?」
 声をあげてしまったのは学ではなく須賀だ。彼は思わず「頭撫でてもらってるんですか!?」と訊いてしまいそうになるが、学の立場を気遣い片手で口を塞いだ。だが学は、そんな気まずそうな須賀を横目に話を合わせる。
「嬉しいです。ついでに、膝枕もしてもらえるようになるかな」
「それは一に殴られそうだ。やめておきなさい」
「じゃぁ、――膝枕は、美春にしてもらいます」
 こんなノロケを、大介の前でしてしまうのは初めてではないだろうか。学にしては、珍しいくらいの照れた表情だ。
 素直でストレートな感情。大介はそこに、大人顔負けの理知的な少年だった学が、そんな幼少時代に時折見せてくれた子どもらしさの片鱗、それを見たのかもしれない。いつものように美春可愛さのあまり感じてしまう気負いが湧き上がることもなく、学の気持ちが心に沁みてきた。
 そして学も、いつもは大介を気にして遠慮をするような話だが、今は口にしても良いような気がしたのだ。

 だがいつまでもノロケ気分ではいられない。学は姿勢を正し、大介に頭を下げた。
「母さんを……、お願いします」
 その下がった頭をポンポンッと叩き、大介は無言の安心感を学に与える。そして軽く手を上げ踵を返した。

 学の脳裏に、微笑みながら頭を撫でてくれるさくらが浮かぶ。
 幼い頃も、成長してからも、母はいつも同じ笑顔で温かな手をくれる。
(母さん……、良かった……)

 涙が浮かびそうなほど大きな安堵感が全身を包むが、学はその心地良い思いを素早く心にしまい込む。
 気を抜いてはいけないのだ。
 今ここで、満足してはいけない。

 ――――彼には、まだやるべき、大きすぎる役目が残っている。

「須賀さん、あなたにはまだ、やって欲しい仕事があります」
 気持ちをリセットし、表情を引き締め、学は最終段階へ足を進めた――――。







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