理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第17章7(跡取りとしての決断)

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「分かっています、このまま監視を続けるんですよね!?」
 須賀はもちろんそのつもりだった。
 美春を奪還するまで、自分の“特別任務”も終わりではない。おまけに櫻井も眠らされたままだ。学がアランのホテルへ向かうとしても、その間何が起こるか分からないのだから部屋を監視する者は必要だろう。
「任せてください。専務がいつ攻め込んでも良いように、オレ、夜中じゅうだって監視しますよ!」
 ハッキングが成功した一件は、須賀を勢いづかせる。
 意気揚々とやる気を見せた彼に、学はその志気が下がってしまいかねない選択を持ちかけた。
「ですが須賀さん、あなたは今、俺がやろうとしていることを手伝うことによって、会社での今の立場を失うかもしれない。――それでも、やってくれますか?」

 須賀は言葉を失う。
 学の言葉を、今ひとつ理解できない。いや、理解したくないのだ。

「誰もが須賀さんの実力を知っている。会社を追われたり、IT事業部で今の地位を剥奪されたりすることにはならないでしょうが、“専務のお傍付き”という特殊な立場は失うでしょう。それによって、特例処置もなくなる。……もしかしたら、会社の業績如何では、あなたへの風当たりが強くなる可能性も、なきにしもあらずだ」

 徐々に学の真意が読めてくる。だが須賀は、口を開かなかった。
 考えられる“それ”が、思いすごしであって欲しい。そう願わずにはいられないからだ。
 この計画を手伝うことによって、“専務のお傍付き”という地位が失われる。
 それは、“専務”がいなくなるから、という結論に達しはしないか……。

「俺が美春を奪い返しに行くというのは、この提携契約を、なかったものにしても良いと判断したともとれる。それは、葉山製薬よりも美春を取った、ということだ。会社を窮地に陥れても、ひとりの女を選ぶということなんだ」

 須賀は瞠目したまま、言葉を出すこともなく学を凝視した。
 今、とてつもない決心を聞かされている気がする。

「それは、葉山製薬の、そして葉山グループの跡取りとして許される行為じゃない。――――俺は、“葉山の跡取り”のまま、美春を助けに行くことはできない」

「専務!」
 須賀は叫び声をあげて、デスクを回り学の前に立つ。これ以上学の話を聞いていたら、とんでもないところまで行ってしまいそうな気がした。
 風格からにじみ出る威圧感。いつもそれを湛える双眸。時にそれは、身が縮みあがり冷や汗を出させるほど厳しくなる。けれど今、須賀を黙らせ冷や汗を出させているのは、その瞳に浮かぶ深い憂いだ。

 学は、とんでもない決意を胸に秘めている。
 それが、その瞳から伝わってくる……。

「須賀さん……」
 驚愕する須賀を見つめ、学は無理強いではない選択を彼に与えた。
「あなたが選んで良いです。俺の決意のために、あなたを犠牲にはできませんよ。――ここに残って、俺の話を聞くか、それともこのまま何も言わずに出て行くか。あなたが決めて良い。その選択に、俺は口出しをしません」

 ふたりの間に走るのは、重い沈黙だ。
 言葉を出すことも、動くこともできない須賀。そして、そんな彼の動向を黙って見つめる学。
 話の内容から、学が何を思い、何を考えているのか、須賀にはハッキリと分かった。
 有り得ることではないし、あってはいけないことだ。そして、誰もが考え得ぬことだろう。しかし学はそれを自分の選択肢に入れたのだ。
 そして行きついた彼の答えが……。

 それは、“跡取り”としての、大人の決断。

 耐えきれず、須賀は奥歯を噛みしめ俯く。学と対峙しているだけで、彼には精神的負担が大きく圧し掛かっていることだろう。
 学は須賀の気持ちを悟ったかのようにクルリと背を向け、窓辺へと足を進めた。
 背中を向けているうちに須賀が専務室を出ていってくれれば良い。そんな気持ちだった。彼は結婚も決まっている。自分の気持ちだけで、将来を決めかねない勝負に出ても良い立場ではないはずだ。
 そう考えた直後、学のスマホが着信音をたてた。
 相手を確認して応答する。学が口を開く前に、真に迫った声が聞こえてきた。
『葉山、頼まれた件の書類、用意できたぞ』
 相変わらずの素早さに、学の顔には笑みが浮かんだ。ただし、さっきまで浮かべていた穏やかなものではない。
 彼が得意な、不敵な笑みだ。
「悪いな、田島」
『書類の確認は? するか?』
「いや、いいよ。お前の仕事に間違いがあるとは思わない」
『じゃあ、このまま進めて良いんだな?』
「ああ、頼む」
 短い会話で通話は終わる。学はスマホを手に深い息をついた。
 おそらくこの会話の間に、須賀は外へ出ただろう。彼を犠牲にするのは忍びないことだ。
(これで良い……。あとは俺が……)
 誰もいないであろう背後を振り返り、学は目を瞠った。
 
 そこには、相変わらず須賀が立っている。
 そしてその表情は、さっきまでの戸惑いに冷や汗を流していたそれではなかったのだ。
「……見損なわないでください……」
 須賀は学の前へ進み出て、口角を上げる。
「オレは、“専務のお傍付き”なんですよ」

 ――――そして、運命は急速に動き出す……。







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