理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第18章3(反撃開始)

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「正直、半信半疑だった」
 失笑する学が手にしたのは、対戦車擲弾発射器。一般的にロケットランチャーと呼ばれるものだ。
 ランチャーにもさまざまな種類があるが、手元にあるのはロシア製RPG-18。
 製造段階でロケット弾がランチャーの中に封入されるため、一回限りの使い捨てタイプになる。重さも2.5キロと軽く、操作も比較的簡単だ。
 そのため、正規品の製造が出回らなくなった今でも、模造品がゲリラなどの間で多く流通している。

「急ぎでしたので、このタイプしか御用意できませんでしたが、御満足頂けました?」
 にこりと微笑みながら当然のように言ってのける紗月姫に、学もニヤリと笑い返す。
「充分だよ。本当に用意するとは思わなかったけどね。ひと暴れするのに武器が欲しいとは言ったが、機関銃くらいでお茶を濁されると思っていた」
「“私が”用意をすると、口にしたのですよ?」
 学はふっと鼻を鳴らし、二丁あるうちの一丁を手にし、もう一丁を肩から下げた。
「君は、絶対に敵に回してはいけない“お嬢様”だな」
「学さんに褒めて頂けるなんて、光栄ですわ」

 学が立ち上がると、ヘリのドアが開く。
 手にしたランチャーの発射筒を伸ばし、それを肩に構えてから、学は膝を落とした。

「アラン……」

 銃口を徐々に下へ向け、手元と先端にある照準同士の焦点を重ね、スイッチに指をかける。

「返してもらうぞ! 俺の“世界”を!」

 スイッチが押され、ロケット弾が発射された。

 ヘリは上空二〇〇メートルの所にいる。RPG-18は、目標地点に到着する以外にも飛翔時間六秒を超えると弾丸が自爆するのだが、この高さは六秒ギリギリの高さだ。
 しかしそれも学の計算のうち。ロケット弾は、彼が照準を合わせたハイラグジュアリー・スイートの中庭、プールの上で自爆した。

 爆風がプールの水を巻き上げる。もともとこのランチャーには小さなビルくらいは倒壊させられるだけの威力がある。ゆえにその爆風は、プールだけに留まらず、部屋に面したガラス窓を砕き割った。

 だがここで思い出さなくてはならない。
 この窓辺には、美春が立っていたという事実だ。
 ここで、学が乗ったヘリを見上げていたのではなかったか。

「美春!!」
 爆風の余韻もかき消すほどの怒声をあげ、学は急降下を始めたヘリから、そのまま飛び降りた。

 ――――学!

 風に乗って、美春の声が聞こえたような気がする……。

 *****

 シャワーを使って、身体だけではなく頭もかなりスッキリとしたような気がした。
 身体を流れるお湯と一緒に、身体の重さも落ちていく。そのお陰で、昨日よりは冷静に今までのことを考えることができた。
 何よりも心に引っかかり続けているのは、アランとグレースの関係なのだ。
 関係性そのものではなく、心の繋がり、お互いの気持ちだろう。
 自分の立場も微妙ではあるが、あのふたりをこのままにはしておけない。美春は心からそう思った。

 着替えを済ませバスルームから出ても、櫻井はまだ目を覚ましていない。こうなってしまうと、美春が眠っている間、本当に彼に対して何もしなかったのか、しつこいくらいに疑いたくなってしまうではないか。
「そうだ、今日は早朝から少し騒がしくなるそうだよ。解体工事があるそうだ。まあ、ミハルが出かけて戻った頃には終わっているだろうと思うけどね」
「解体工事?」
 ソファで相変わらずタブレット片手にコーヒーカップを傾けていたアランが、彼女の入浴中に話題になったメッセージカードの件を話す。しかし解体工事と聞いて、美春は首を傾げた。
 この付近に、解体するような古い建物などあっただろうか。
 場所的に比較的自然が広がった地域ではあるが、ホテルと同じ時期に建った店やレストランはあっても、景観を崩しかねない解体寸前の建物などなかった記憶がある。
(ホテルに連絡が回るっていうことは、近くなのよね?)
 疑問が深くなりかかるが、その思考をグレースの疑問が遮った。
「あのヘリ、何かその工事に関係があるのかしらね。ずっとあそこにいるような気がするのよ……」
 通りすがりに窓の外を見上げ、美春に「コーヒーでいい?」と問いかける。しかし返事を聞く前に、彼女はバーカウンターの中へ入って行った。
 グレースは何気なく出した言葉であったようだが、美春は無性にそのヘリの存在が気になり出す。
 バスルームへ行く前、美春も微かなヘリの音に胸騒ぎを覚えている。それを思い出したのだ。
 窓辺へ近付き空を仰ぐと、そこには晴天を思わせる靄の中でホバリングをし続ける一機のヘリコプターが見える。かなり上空なので小さくではあるが、それでも、通常よく見る物よりは大型のヘリであることが分かった。
 そして美春には、そのヘリが、白い機体に青いラインが入った辻川財閥所有のMH2000であるような気がしてならない。
(紗月姫ちゃん……? ――学!?)

 心がザワリと騒ぎ出す。
 あのヘリに乗っているのは、紗月姫はもちろん、学ではないかと思えてならないのだ。
 美春は窓に両手を当て、はるか上空を見つめた。
(学……)
 あそこに学がいる。
 絶対に彼が乗っているのだ。
 もはやそれは、美春の確信だった。
 ヘリを見つめていると、学が見つめ返してくれているような気さえする。
 彼の視線を感じようとすると、嬉しくて涙が浮かんだ。

(迎えに来てくれたの? 学……)

 ヘリが涙で滲んだ。
 もう今の状況をどうしようもできないのだと諦めても、学への想いを諦めることなどできない。
(学……)

 しかしその直後……。
 ヒューン……という、何かの飛翔音が耳に響いた。
 ヘリから何かが落下したのだと気付いた、その時――。
「女史! よけろ!!」
 すくみあがってしまいそうな怒声。
 そして美春は、身体を抱えられるように引っ張られ、窓辺から引き離された。
 大きな爆音と共に、中庭でプールの水が津波のように巻き上がった光景を視界の端に捉える。だが彼女は、身体を抱き抱えられたまま、メインルームの出入り口近くまで、意外な人物と共に床を転がった。
 そして、何が起こったのかと顔を上げた次の瞬間、爆風が窓ガラスを砕いたのだ。
 






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