理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第18章4(選ばれた者の誇り)

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『きゃぁ……っ!!』
 グレースの悲鳴が響く。美春も悲鳴をあげそうになったが、ガラスが割れた直後耳に届いた声に、そんな行動も止まってしまった。
 確かに聞こえたのだ。学の声が。
 「美春!!」そう叫ぶ、彼の声が。
「……まな……ぶ……?」

 砕けたガラスの向こう、まだ飛沫が上がり水が大きく揺れるプールの中へ、ヘリから飛び降りてきた男の姿が吸いこまれていく。
 その人物を確認して、美春は泣き声で叫んだ。
「学っ!!」

 一瞬のうちに起こったハプニング。
 間違いなくこの一件に関係しているらしい学の身を案じ、美春は窓側へ駆け寄ろうとした。
 しかしその身体を、がっしりと抱き押さえている者がいる。ガラスが割れる一瞬のタイミングで美春を窓辺から引き離し、助けてくれた人物だ。
 まさかという思いしか生まれない。
 見上げたところにあるのは、櫻井の顔だ。薬で眠らされ、ついさっきまで目を覚ましてはいなかった彼なのだ。
「櫻井さ……」
 美春が呆然と彼を見つめると、櫻井はニヤリと笑って叫んだ。
「専務、安心してください、女史は無事です!」
 どこへ向かって叫んでいるのだろう。櫻井は美春を見たまま学を呼んでいる。そして不可解なことに、「ありがとう、須賀君」と、須賀に礼まで言っているのだ。
 不思議そうに目をぱちくりとさせる美春に、櫻井は左サイドの乱れた髪を掻き上げて見せた。
「ありがとう、女史。これを、壊さずそのままポケットに入れておいてくれたお陰で、専務とも、須賀君とも、連絡を取ることができた」
 彼の左耳に嵌っていたのは、昨日彼が須賀と連絡を取り合うために使用していた、小さなワイヤレスのヘッドセットだ。倒れた時に耳から外れたが、美春は彼のスマホが入ったスーツのポケットに戻していた。
「夜中に目が覚めて、専務と須賀君と連絡を取った。かなり前から、目は覚めていたんだ」
 櫻井は待っていたのだ、このタイミングを。
 学が攻め込んでくるこの瞬間、美春に危険が及ばないよう、彼女を守る役目を任された者として。

「櫻井さん……良かった……、あ、でも、あの、学が……」
 櫻井が無事で嬉しい。そして、そんな計画が三人の間で立てられていた事実に感動する。しかし、ヘリからプールの中へ飛び降りた学が心配だ。
 美春の心は、どこへ向かって良いのか分からない。困惑して泣きそうな顔を見せると、櫻井は喉の奥で笑いながら、腕を引いて一緒に立ち上がった。
「バーカ、何を心配しているんだ? “専務”だぞ?」
 美春から離した手で肩をポンッと叩き、窓を指差す。美春はその指が指し示す場所へ視線を向け、そして、動けなくなった……。

 大きく割れ砕けた窓の向こうに、浮かぶ人影。
 プールからあがり、びしょ濡れの彼は、肩から一丁の鉄の塊を下げたまま、ふてぶてしいまでに不敵な笑みを浮かべ、ゆっくりと歩いてくる。
 その足は窓の外でピタリと止まり、視線が美春と櫻井を捉えた。
「さすがだな、櫻井さん。見事すぎる反射神経だよ。爆発から爆風でガラスが砕ける一瞬の間に、あの場から起き上がって美春を助けたんだから。素晴らしい」
 最高の賛辞。いつもの櫻井なら、謙虚に「ありがとうございます。光栄です」とだけ返したことだろう。
 だが、今日の彼は違った。
「――――当然じゃないですか」
 学や須賀、そして紗月姫や神藤だけではない。櫻井とて、この逆襲の朝に、気持ちが奮い立っているのだ。
「俺は、“専務のお傍付き”なんですよ。専務に選んでもらった、男ですから」

 彼は自信を持って言い放つ。
 きっと、この言葉を聞いている須賀も同じことを思っているだろう。
 自分の世界を奪い返すために、地位も名誉も自分のプライドもすべて捨てて、命懸けで立ち向かっていける。こんな無茶な男に、けれど、恐ろしいほどにその理想も想像も完璧に現実のものにしてしまう……。
 そんな男に選ばれたことを、誇りに思うと。

「美春を守ってくれて、ありがとう」
 誠意を込めた学の礼に、櫻井は黙って頭を下げる。美春の無事な姿に安堵して和んだ瞳は、そのまま彼女を見つめた。
「……学……」
 美春の瞳は潤み、言葉にできないほどの嬉しさを彼に伝える。学もすぐに美春を抱きしめてしまいたい衝動に駆られるが、彼にはまだやらなければならないことがある。
 学は美春から視線を流し、まずバーカウンターの中で、驚きのあまり自分を抱きしめ動けないグレースを確認する。そして次にソファへと移した。
 そこには、激しい動揺ようこそしてはいないものの、黙って瞠目したアランが学を凝視している。
 手にしていたタブレットもコーヒーカップも落としてしまっているが、一瞬の出来事に彼も動き出すタイミングを失った。ここまでガラスの破片が飛ばなかったのは、幸いというべきだろうか。

 学は、ゆっくりと足を進めながら、肩に下げていたロケットランチャーを両手で持ち、発射筒を伸ばす。
 鉄の塊を肩に構え、ソファ前のテーブルに飛び乗ると、銃口をアランの頭に突きつけたのだ。
「――――美春を、返してもらう」

 これが脅しであることは、誰もが分かることだ。
 この体勢でロケットランチャーなどを発砲すれば、アランは元より学だってただでは済まない。
 そしてもうひとつ、アランには学を蔑むべき思いがある。
 こんな派手なことをして、学はせっかく上手くいくところだった提携契約を駄目にしたも同じだ。ということは、葉山を窮地に陥れる選択を、彼はしたのかと……。
 だが、そんなアランの思惑を悟ったかのように、学は、今の“彼”という存在を口にした。
「……会社には、辞表を出した。……葉山家とは、絶縁することを現当主から容認されている。……残念だな、アラン。俺は、もう、専務でも跡取りでもないんだ」







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~ Comment ~

ちょっと~!

や~~、やるとは思ってました!学君!
かっこ良過ぎ・・・まっ学くんだから許しちゃいましょう^^
やっとあるべきところに戻れた美春ちゃん。
さぁ~アランはこれからどうなる?
グレースの愛に気がついてくれるかな?
毎日楽しみにしています。
明日も待ってます^^

Re: ちょっと~!(MIDORIさんへお返事です8/29)

MIDORIさん、こんにちは!

やると思ってくれました?
そうですよね、ランチャーの話題が出たところで思っちゃいますよね!(笑)
彼らしく暴れてもらいたくて、やっちゃいました。
もう殴り合う年でもない(?)ので、これしかないかなと。

お楽しみ頂けるように頑張りますね。
有難うございます!

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