理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第19章1(切り捨てられる秘書)

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「リコール……。そうか、だから……」
 信じがたいほど急な、アランに対するリコール。
 それを聞いて、美春はやっと胸にわだかまっていた疑問の内容を悟った。
 ずっと、おかしなものを感じていたのだ。
 学も、大介やさくらも、そして弟のレインでさえも。
 この部屋に入ってきて、誰ひとりアランを「社長」とは呼ばなかったことに。
 この状況から、学がアランを「アンタ」と呼んでしまう理由は分かる。だが、「ミスター」と称したとはいえ、大介やさくらが「アラン社長」と一度も口にしなかったのは、激しく違和感を覚える。
(アランは、もう社長じゃない。……それを、皆が知っていたんだ……)
 失脚を知っていたからこそ、皆、彼をトップとして呼びはしなかった。それもすべて、計画のうちなのだろう。

 こんな大それたことを計画しそれをやってのける。
 リコールにまで関係しているとなれば、学だけの力ではないだろう。

 ふわりと、聡明な風が目の前を過る。
 風がそよいだ方向を目で追い、美春はこの一件に大きな権力を落とした人物を捉えた。
 対峙する、“神”と蔑まれた男と、“悪魔”と驕った男。その中央に立ち、暗躍した天使が微笑む。
「お目にかかるのは初めてですわね。あなたは滅多にパーティーやメディアの前にも姿を現さない人ですもの」
「噂には聞いていましたが、葉山の裏にいる権力が、こんなチャーミングなレディだとは思いませんでした」
「光栄ですわ」
 紗月姫はにこりと微笑み、レインに話の権利を譲る。軽く頷き、彼は話を続けた。

「兄さんのリコールによって、新社長には僕が。兄さんが計画していた日本支社の支社長は、これから新たに審議されます」
「……マナブや、このお嬢さんと結託して、上手くお払い箱にしたってわけか……。せいせいしただろう、レイン。危険分子を、会社から追い出せたんだからな」
「兄さん……」
「別に会社じゃなくても、研究はどこででもできる。社長なんて肩書はないほうが自由もきく。――そのうちに、ロシュティス内でおかしな感染病でも蔓延したら、僕を疑え」
 過去の出来事を考えれば、アランの皮肉は冗談には聞こえない。そんな恐ろしい言葉を吐いて、アランは大きく鼻を鳴らしグレースへ目を向けた。
 驚愕の表情でアランを見つめる彼女。その表情から、このリコール問題にグレースは関与していないことを悟る。自分を陥れるための算段に彼女が加わっていなかったことを心の隅で安堵しながら、アランはレインに言い渡した。
「――――レイン、グレースは、お前にやる」
「アラン!」
 グレースは思わず叫んだ。慌ててアランの傍へ駆け寄ろうとした彼女を、紗月姫の背後からスルリと離れた神藤が止める。
「落ち着いてください。まだ、話の途中です」
「アラン! わたしは……!」
 掴まれた両腕を、引き千切らんばかりの勢いでアランの元へ行こうともがくが、もちろんそれは叶わない。アランはすぐに、そんな彼女から目を逸らした。
「秘書でも、妻でも愛人でも、好きなようにすると良い。ずっと僕の傍にいたが、内側から壊すような扱いはしていない。お前とは、話しも性格もあっていたみたいだからな。悪い話じゃないだろう。僕にはもう……――必要ない」
「アラン!!」
 ひときわ大きく叫んで、グレースはあまりの展開に身体の力が抜ける。一瞬彼女が失神してしまったのかと驚いた美春だが、グレースはその場に泣き崩れ、神藤が手を離しても、動くこともできなかった。

『……そばに……いさせて……』
 悲しみと苦しさに声を震わせ、グレースは涙を流して伝わらない痛切な思いを口にする。
 必要ない。その言葉が、彼女の心に血を流させる。痛くて痛くて失神してしまいそうだ。いや、いっそ、失神したまま眠ってしまいたいとさえ、彼女は思った。

 泣き崩れたグレースの姿に、美春は胸が痛くなる。
 間違いなく、グレースはアランが好きなのだ。どんなに痛めつけられても、どんなに冷たくされても。たとえアランに、“物”のようにしか扱われていなかったのだとしても……。
 それを思い知れば思い知るほど、胸を占める疑問は大きくなる。
 このままにしておいてはいけない。ふたりの関係を、ここで終わらせてはいけないのだ。
 決意に揺り動かされ口を出そうとした美春だったが、先に紗月姫が口火を切ってしまい、そのタイミングを失った。

「残念ですが、アラン。あなたはもう、『どこでも研究ができる』立場ではなくなります」
 足元に落ちていたアランの視線が、紗月姫へと移動する。何気なく上げた顔ではあったが、目の前で垣間見る紗月姫の変化に、彼は目を見開いた。
 今までチャーミングなレディの表情だったそれは、反抗を許さない制裁者の厳しい表情に変わっていたからだ。
「政府から、強制帰国命令が出ています。あなたは、すぐにスイスへ戻らなくてはなりません。逃亡の機会を与えぬよう、当、辻川財閥の専用機でお送りいたしますわ。空港では、たくさんの人間があなたを出迎える準備をしてくれていることでしょう。――スイス警察の皆さんが」







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後書き
こんにちは。玉紀直です。
第19章、スタート致します。

よろしくおねがいいたします。





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