理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第19章8(もうひとりの対決相手)

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「学?」
 不安げに見上げてくる美春に、学は彼女用の笑顔で微笑んで見せる。
「大丈夫だ。早く美春をもっと抱きしめたいから、速攻で話を着ける。心配するな」
 いつもの学が傍にいる。それがとても嬉しい。その気持ちのまま美春は伸び上がり、学の唇にチュッと可愛らしいキスをした。
「がんばってっ」
 こんな仕草を見せられて、学がそのままでいられるはずがないではないか。彼は湧き止まらぬ愛しさのまま、勢いで唇付けようとするが、当然素早く挟まってきた手のひらによってそれは阻止された。
「ほんの数分も辛抱ができないのですか? ここでの発情はお控えください、学様」
 さっきより眉が寄ってしまった神藤を見て、学はしてはいけない冷やかしを入れる。
「神藤さん、俺たちがくっついてるとイライラするんだろう? 自分がむやみに発情できないから」
 いつもと変わらない憎まれ口を発する学に、この騒動に対する鬱とした気持ちは見受けられないことを確認して、神藤もいつもと変わらない皮肉を返す。
「おふたりを見ていてイラつくなど、とんでもございません。むやみにではありませんが、私も二十二時を過ぎた時点で発情が許されますので、それまで上手く溜めております」
「一日分?」
「はい。しっかりと」
「毎晩一気に大爆発だな……。良く我慢できるね神藤さん」
「おそれいります」
「俺なんか小出しにしないと、一気に、じゃ、夢中になって何をやるか分からないからね。神藤さんは昔から抑えるのに慣れているから、そうでもないんだろ?」
「いいえ。結構無茶をしてしまっているような気がします」
「……今度、ゆっくり飲みながらその辺り詳しく聞いてみたいんだけど……」

「何の話をしているのですかっ。あなたたちっ!」
 男同士の会話に、当然のごとく飛ぶ叱咤。しかし注意を促す紗月姫の頬は染まり、美春は小さく喉を震わせた。
(いがみ合ってるけど、結構気が合って仲良しだよね、このふたり)
 いつもと変わらない学と神藤の様子に安心感をもらいながら、美春の視線は別方向へ流れる。そこでは、薬を服用し終えたアランがソファに横たわり、グレースがその傍らに座っていた。
 見つめ合い手を握り合ったその姿は、これから始まる辛い罪の贖いさえも、幸せに感じているかのようだった。

 *****

 もうひとつの話し合い。
 用意されていたのは、学と美春も利用したことのあるラグジュアリー・スイートだった。
 入室を許されるのは、学と美春。そして紗月姫と神藤のみ。学の考えとしては、さくらも話し合いに加わるのだろうと思っていたが、昨日目覚めたばかりの彼女は長い時間の外出が許されず、このまま大介や櫻井と共にドクターヘリで病院へ戻るのだ。
「美春ちゃん」
 ロビーまで見送りに出た美春に話しかけたさくらは、彼女と目が合うとにこりと微笑んだ。
「退院したら、また一緒にお茶会しましょうね。エリちゃんも一緒に」
「あ……、はい……」
 少し返答に戸惑う。学が葉山から離れるという状況で、今まで通りさくらなどとの付き合いは続けても良いものなのだろうか。
 上目使いに学を盗み見ると、彼はどうも神妙な面持ちだ。さくらの言葉に思うものがあるのだろうか。それとも、これからの話し合いに、緊張する気持ちを隠せないでいるのだろうか。
 すると、そんな学を一瞥して、さくらは彼に圧力をかけた。
「――まさかと思うけど? 私から美春ちゃんを取り上げようとは思っていないわよね?」
 相変わらずの美春好きに、学は苦笑いを浮かべる。そこへ、意味深なひと言が加わった。
「あなたも、お茶会仲間に入れてあげても良いのよ。大人しく“負け”を認めるならね」
「……負け?」
 言葉の意味を理解しかねる学だが、さくらはくすりと笑うだけだ。大介に促され櫻井が車椅子を押し始めたので、話はそこで中断された。
 三人を見送りながら、さくらが残した言葉の意味を考えていた学に神藤が近付く。彼は学の耳からヘッドセットを抜き取り、須賀に話しかけた。
「須賀さん、お疲れさまでした。セキュリティはすべてホテル側へ戻してください。“後片付け”、大変かと思いますがよろしくお願いします。あとは、学様からの連絡を待って待機していてください」
 『了解しました!』という、彼らしい張り切った声を確認し、神藤は通信を切る。ヘッドセットを学へと返したその手で、進行方向を示し促した。
「御移動を。――お待ちかねですよ」
 学より先に紗月姫が歩き出す。チラリと学を振り返り、悪戯に悪びれて見せた。
「“ラスボス”でしょうか」
 美春の肩を抱き、学も歩き出す。思ったより紗月姫のひと言に昂った心が、つい本音を漏らした。
「違いない」

 *****

 部屋に入った瞬間、「……はぁ?」と、何とも間抜けな声が出てしまった。
 横に立つ美春などは、漏れる声もないままポカンッと口を開け、目をぱちくりとさせている。
 ラスボスとまで紗月姫に言わしめた最後の話し相手、一は、指定されたラグジュアリー・スイートで学を待っていた。
 ただ、彼ひとりではない。ソファに座って待ち構えていた彼の傍らには、彼の“守り人”がいたのだ。
 歴代、法を持って葉山を守り続けてきた法曹一族、田島総合法律事務所の所長にして信の父親、そして葉山グループの顧問弁護士である、田島信悟が。
 ……だが、それだけなら学も驚きはしない。
 問題なのは、その横で信悟にスーツの襟足を掴まれた信が、気まずそうに立っていたことだ。
「あのさー、父さん、……葉山も来たことだし、そろそろ離してくれよ。……猫じゃないんだからさ」
「猫の粗相よりまだ悪い。お前が一坊ちゃんに歯向かうとは、命知らずにもほどがある」
 信の襟足を離し、背中をバンッと叩く。よろけて転びそうになった息子を無視して、信悟は眼鏡の下を指の腹でクイッと上げると学に笑いかけた。
「おはようございます、学君。お久し振りですね」
「ごきげんよう、信悟先生。今朝はまた、早々に呼び出されたようで……」
「呼び出された理由は、学君が良く分かっているのでは?」
 穏やかな口調だが、彼の話し方には隙がない。
 下手な言葉は口にできない雰囲気に、学はただ笑みだけを返した。






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~ Comment ~

NoTitle

きゃ~~!
 オールスターキャスト?
 久しぶりの信悟先生、W親子競演ね^^
 まっ、二人とも父親の方がまだまだ上手なのはわかってるけど、お父さんたち息子いじめもほどほどに勘弁してあげて!

MIDORIさんへお返事です(9/12)

MIDORIさん、こんにちは!

いやもう、鉄は熱いうちに打て、と言いますか、出る杭は打たれる、といいますか。(笑)
信悟先生を出したかったのがバレバレの展開でございました。(^^ゞ

お父様がたには、ほどほどにコテンパンにして頂こうと思っております。(おい)
いつか、本当に父親を超えられる男になって欲しいですね。

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