理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第20章2(愛しい親友)

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「田島君、戻ってこないのかな……」
 唇を合わせたまま美春が囁く。彼女の頭に手を添え、学はゆっくりと上半身を起こしながら身体を反し、正面から美春を抱き締めた。
「……戻ってこないほうが良いな」
 強く彼女の唇に吸い付き、重なり合い静かにソファへ沈む。「んっ」と可愛らしく喉を鳴らす美春が、変わらずに腕に中にいるという幸せが、学の五感を刺激した。
 信が戻ってこないのは学も気がかりだ。涼香に連絡を取って、そのまま帰ってしまったのだろうか。
 だが、戻らなければ戻らなくても良いのだ。むしろそのほうが良い。
「美春……」
 そうすればこのまま、美春と愛し合える……。
「愛してるよ」
 唇の囁きに全身をふるりっと震わせ、美春も変わることなく愛しい人の腕の中にいられる幸せを、身体中で感じる。学の背をしっかりと抱き、ふたりの唇付けが深く濃密に変わった時……。
 学のスマホが着信を告げた。
 無視してしまいたいほどの良いムードではあるが、もしかしたら仕事の件なのかもしれない。だが学も諦めが悪い。彼は美春にキスをしたままスマホを取り出し、横目で相手を確認した。
 かけてきたのは信だ。おそらく涼香が心配だったのでそのまま帰ったとの連絡なのだろう。そう考え、「ちょっと待ってて」と美春の唇をつつき、ほわりと頬を染めて悦に入る彼女を見つめながら応答した。
『葉山ーっ、ごめん、イイトコだったろう?』
 聞こえてきたのは、お見通しと言わんばかりのおどけたセリフ。邪魔するなと怒る気にもなれない。
「イイトコだったよ。これからベッドまで運んで行こうと思ってたところだ。見に来るか?」
『いいねぇ、是非見てみたい。でも、絡んでるのがお前だと思ったら、なんか恥ずかしくて見ていられないと思うけどな』
「俺だって、可愛い美春ちゃんの特別可愛い顔なんか見せてやる気ないって」
『その“可愛い美春ちゃんの顔”を“見たい”っていう御方が来てるんだけどさ。ドア開けてくんない?』
「ドア?」
『ああ、今、部屋の前にいるんだ。チャイム鳴らしただけじゃ、お前が無視するだろうと思ってさ。電話にした』
 ご名答。付き合いの長さは伊達ではないようだ。学は苦笑して美春の上から下りる。いかがわしい会話の内容に眉をひそめていた美春も、首を傾げながら起き上りソファへ座り直した。
 学が廊下へ消え、続いてドアが開閉する音が聞こえる。直後、パタパタパタと、学とは思えない可愛らしげな小走りの音が聞こえ、その主がメインルームへ飛び込んできた。
「美春!」
 声の主を目の前に、美春は思わず立ち上がる。
 涼香だ。
 満面の笑みを湛えた彼女が、美春へ駆け寄り抱きついてきた。
「お帰り! 美春!」
 嬉々とした声でありながら、そこには嗚咽が混じっている。ガッチリと抱きついてくる親友の喜びを感じながら、美春の瞳にも涙が浮かんだ。
「……涼香」
 走っちゃ駄目。そんなに興奮しちゃ駄目。色々と言いたいことはあるが、今、涼香に言いたいことはひとつだけだ。
 美春は抱きついてくる身体をふんわりと抱き返し、嬉しそうに伝わる気持ちへ心を返した。
「ただいま。……涼香」

 涼香に連絡を入れた信は、問題が片付いたと聞いた彼女が「今すぐ美春に会いたい」と予想通りの反応をしてくれたことに楽しくなった。
 涼香なら、きっとそう言うだろうと思ったのだ。あの悲しい別れをした後も、きっと美春はこの苦境を乗り越えてくれると、涼香はずっと信じていたのだから。
 信が迎えに行くより、彼女を向かわせたほうが早い。言うより早く「すぐタクシーで行くから」と涼香のほうから行動を起こしてくれた。信はその到着を待っていたので、なかなか部屋にも戻って来なかったのだろう。

「会いたかったよ……、美春……」
 ギュッと抱きつき頬擦りしてくる様子は、まるで何週間何カ月も会わないでいたかのようだ。
 正確に言えば一昨日に会っている。しかしあの日の状況から心も立場も遠ざかってしまった感覚に襲われていた分、こうして何の心配もいらないままに会えたことが、久し振りの再会であるかのような錯覚に陥らせるのだ。
「こら、涼香」
 叱り言葉ながら、美春は嬉しそうに涼香の頭をポンポンッと叩く。
「走っちゃ駄目でしょう。“はるかちゃん”が泣いちゃうよ?」
「はるかが早く美春の所に行こうって言ったんだから良いのよ」
「本当?」
「本当よ。信ちゃんから電話がきて、美春に会えるって思った途端、胸苦しさもお腹の張りも治まったんだから。はるかも美春が好きなのよ」
「うれしーっ。『ママより好き』とか言われちゃったらどうしよう」
「ちょっとぉっ」
 お腹の子どもを話題に入れて話は弾む。まだ目の前にいないから好きなことを言っていられるが、考えてみればあと三カ月ほどで“はるか”は実物になるのだ。
 大好きな親友が大切に育んでいる命。女の子だということは分かっているし、名前も既に決まっている。この子は、涼香が言うように美春を好きになってくれるだろうか。そう考えると、美春はドキドキもするが、ワクワクするほどに楽しみだ。
 美春はふくよかさを感じさせる涼香のお腹を撫で、囁くように話しかけた。
「よろしくね。仲良くしようね、はるかちゃん」
「くすぐったいわよ、美春」
「いいじゃない、撫でさせてよぉ。でも、妙にお腹硬くない?」
「腹帯してるもん」
「腹帯してるなら撫でたってくすぐったくなんかないでしょう」
「はるかが喜んで、お腹の中でコロコロするからくすぐったいのっ」

 楽しげなふたりの傍らで、男ふたりは何とも寂しい。それでも涼香の嬉しそうな笑顔を満足げに眺め、緩まる口元を隠せないまま信は肘で学をつついた。
「なぁ、マジで、してたのか?」
「うーん、あと五分電話が遅かったら、し始めていたかもな……」
「そりゃ、イイトコ邪魔して悪かったな」
「まあいいさ……」
 苦笑しつつ、学は美春を見つめる。あの笑顔を、また当然のように見られるようになった幸せが、時間を追うごとにひしひしと実感できてくるようだ。

 学の熱っぽい視線を感じ、目の前では涼香の幸せを感じ、美春はふと思い出す。
 考えてみると、美春も涼香と同じ幸せをもらっている可能性があるのではなかったか……と。








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