理想の恋愛 完璧な愛・第12部(完結編)

第20章10(愛しいあなたと永遠の愛を)

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「入籍、済んだ頃かな……」
 ポツリと出た呟きは、誰に聞かせようと思ったわけではない。
 だが傍らで急須を傾けていた涼香は、信の言葉を聞き逃さぬよう、湯気さえも静寂を守る緩やかさで湯呑を満たしていった。
「やられたー、って感じだな。まあ、正当な順番でいけば、葉山たちが最初なのは当然といえば当然なんだけど」
 昨日走った嫌な予感。あれは気のせいなどではなかったのだ。
 「先ですまない」と謙虚な態度を見せた信に、学はほぼ記入済みの婚姻届を預け、さくらとエリに署名をしてもらうという大仕事を信に託した。
 信と涼香が入籍をするのは明後日。完全に先を越された形だ。
「良いじゃない。先とか後とか、関係ないわよ」
 菱崎家の茶の間から見える、中庭の日本庭園。白砂と玉砂利の優雅なコントラストを見つめていた信の目に、ふわりとした湯気、そして心落ち着く香りが漂う。
 湯気を追って視線を横に流すと、そこには見ているだけで幸せになれる笑顔があった。
「やっとあのふたりが結婚できるのよ。喜んであげなくちゃ」
 心から親友の幸せを喜ぶ涼香につられ、信は「そうだね」と口にして白砂に視線を戻した。
 彼の隣へ膝を進め、涼香は頭をしな垂れかける。
「守り、守られ、何があってもふたりで手を取り合って、お互いだけをずっと見詰め続けてきた。……そんな恋愛の理想を、貫いてきたんだもの」
「それも、二歳の時からだろう? びっくりするよな」
「赤ん坊だって、好き嫌いは見分けるわ。たとえ二歳の子ども同士でも、あのふたりは出会った瞬間に運命的なものを感じたのよ」
「運命の愛、っていうやつか……」
 何気なく口にしてから、その言葉に照れ臭さを感じ、信の視線は天井を仰いだ。また、涼香がクスリと小さく笑ったことで、こんな言葉は学ならばともかく自分の柄ではなかっただろうかと考える。だが、それに対して、涼香の気恥ずかしげな問いがかけられたのだ。
「信ちゃんは……、私にソレ、感じてくれてた?」
「うん? 何?」
「私と、初めて会った時」
 言葉の意味に一瞬止まるが、信はすぐに涼香を正面から抱き締める。
「当然だろう!? 感じた、感じた、運命感じた!」
「三回も繰り返すと、真実味に欠けるわ」
「じゃあ、何回ならいいの?」
「クスッ……、もっといっぱい」
 この可愛い冗談に信が乗らないはずもなく、彼は涼香を抱き、彼女の頭に頬をスリスリと付けながら「感じた感じた」と何度も繰り返し始めた。
「ちょっ、ちょっとぉ、冗談よ。もういいわよ、分かったってば、もうっ……」
 声を立てて笑い、信の腕をパンパンと叩く。だがその腕が外されることはなく、今までおどけていた彼の声は、とても穏やかなものに変わったのだ。
「――運命の人、見つけた。って、思った……」
 笑っていた涼香の動きが止まる。彼女は自分が呼吸をする音さえ疎ましいというかのように息を潜めた。
「涼ちゃんに会った時から、オレは、涼ちゃんしか見えなくなったんだよ」

 高校の入学式。校舎前に咲く桜の大樹。
 その下に佇んでいた、牡丹の華。
 そこから、廻り始めた、信と涼香の運命。

「涼ちゃんは、葉山と美春さんは理想の恋愛をしてきたっていうけど、オレにとっての“理想”は、涼ちゃんだから」
「信ちゃん……」
「涼ちゃんも、そう思ってくれる?」
 彼の腕に添えられていた涼香の腕が背へ回り、信のシャツをグッと握る。ジワリと滲んだ涙と共に漏れそうになる嗚咽を隠そうと、彼女の声は強気なトーンで出された。
「……当たり前、でしょっ」
 だが、半泣きでは迫力はない。信がクスッと笑った声を聞いて自分の強がりを悟られていることを知り、涼香は彼の胸に顔を押し付けた。
「信ちゃんは私の……、運命の人なんだから……」
 涼香の髪を撫で、信は彼女の頭に頬を寄せる。
「愛してるよ。涼香……」
 
 抱き合い、愛する人を確かめ合うふたり。
 そんな両親に同調するかのように、涼香のお腹の中でポコポコっと愛の証が跳ねた。

 ――――理想の恋愛を貫いたふたりが、ここにも……。

 *****

 葉山家のリビングには、まだまだ夏の終わりを感じさせない陽射しが射しこんでいた。
 日曜の昼下がり、そこには、さくらが淹れた紅茶を囲みながら団欒をする一と、そして大介とエリの姿がある。
 この場には四人。だがテーブルにはティーカップが六客。しかしそのふたつ分を「早く飲みなさい」と急かす者はいない。そんな野暮なことをしてはいけないと、誰もが分かっている。
 せっかくの紅茶を冷ましてしまっているふたりは、リビングと繋がったサンルームにいた。
 広いフローリングに脚を伸ばして座り、ピッタリと身体を寄せ合った学と美春。
 ふたりの傍らには、蓋を開けたままのリングケース。その中身は、繋ぎ合った左手同士の薬指に嵌っている。
 サンルームに射しこむ光に輝く、結婚指輪が。
 指輪は葉山の両親からプレゼントされたものだ。最後の勝負となる仕事が始まる一カ月も前から、ふたりには秘密にしたまま手配をしていたらしい。
 指輪の裏には互いの誕生石が埋め込まれ、イニシャルの他に“Eternite”と、フランス語で“永遠に”を表す刻印が成されている。

 強く感じるはずの陽射しは、柔らかくサンルーム全体に射しこみ、ふたりを優しく包む。
 学と美春が、初めて出会ったサンルーム。あの時は春だったが、まるであの日を思い出させるかのような光だと、ふたりは感じていた。

 昨日婚姻届を受理され、美春は“葉山美春”になった。
 ふたりは夫婦となり、世間的にも本当の意味で結ばれたのだ。

 この場所で身体を寄せ合い思うのは、今までのこと。
 甘く、だが、波乱もあった恋愛の軌跡。
 ふたりが作りあげた、理想の恋愛。
 それは、学と美春、ふたりだけの心にあるものだ……。

 誰もが納得する理想などは、存在しない。
 理想は自分で作りあげるもの。自分たちにとって最高の恋愛ができたなら、それは、自分たちにとっての“理想の恋愛”。
 そして、誰もが認める完璧な愛も有り得ない。
 恋愛は、障害があり、しがらみがあり、それをもって様々な出来事が起こるものだ。
 それらを愛する人と共に乗り超え培い、そして更にその愛を育んでいく。
 そうして一生を通して、その愛を貫けたなら。
 それはきっと、ふたりにとっての“完璧な愛”になる。

「美春……」
「学……」
 どちらからともなく呼び合い求める声は、幸せに満ちている。
 これからのふたりを思わせるかのように。
「愛してる……」
 ふたり同時に出る言葉。そのあとに、お互いの唇が、自然と重なった。

 学と美春は、これから、一生涯をかけて共に築いていくのだ。
 ふたりで歩んだ、恋愛の軌跡の元に。
 完璧な愛を。

 光に祝福され、誓い合った、永遠の愛の元で――――。




**********
後書き
 こんにちは。玉紀直です。
 第20章、今回でラストとなり、残すはエピローグのみとなりました。

 穏やかに進みました今章。
 ふたりが夫婦となり、これからもずっとこの愛を貫こうと誓うところでラストです。
 このラストを目指して書き続けていたので、私自身感無量です。

 ……という話は、エピローグが終わってからにしますね。(^^ゞ

 このシリーズのエピローグといえば、社会人編で時期が重なってしまうまで“未来”をお見せしていたものであったことを覚えて頂けていますでしょうか。
 シリーズ完結のエピローグは、その“未来”をお見せいたします。

 どうぞ最後までお付き合いください。
 宜しくお願い致します。


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玉紀直さま、ここでのコメントとてもお久しぶりです。ずっと拝読させていただいていたのですが、なかなかタイミングが!次々新しい章に続くので読み込んでいくほうが忙しくて(笑)残すところ後エピローグ!楽しみ!
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