「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛・企画SS集

●『永遠のメリークリスマス』・1(2013クリスマスSS)

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「何を笑ってんだ? 薄気味悪い」
 ――――言いすぎですっ。
 思わずムキになって言い返したくなるが、スケジュール帳から上げた顔はニマニマとご機嫌だ。暴言を吐かれても尚この反応では、“薄気味悪い”に反論しようがない。
「クリスマスだからって浮かれるな。いやらしい」
 暴言に上乗せされる、丸めた書類の連打攻撃。ポコポコポコポコ、彼女の頭を跳ねはするが、特に痛いわけではない。
 それでもひと言やり返したくなるのが仲の良い証拠。お約束とばかりに、葉山美春は椅子から立ち上がった。
「んもぅっ、痛いなぁっ。パワハラですよ、パワハラっ。櫻井さん!」
「黙れっ。お前の『旦那様に言いつけてやる』発言のほうがパワハラだっ」
「パワハラじゃありませんよ、夫婦愛です!」
「俺のだって、部下に対する愛情表現だっ」

(どこがですかっ!!)

 瞬発的に反抗はするものの、美春だって櫻井が自分を部下として可愛がってくれていることは、今までの様々な経験から充分に分かっている。
 学と美春が結婚して四カ月目。
 “専務夫人”の肩書きまで付いてしまった美春に、今までにはなかった遠慮を見せる社員なども時に見受けられる状態ではあるが、相変わらずまったく変わらないのが、この櫻井だ。
 秘書課にあるプライベートオフィススペースでスケジュール帳を眺めていた美春。とあることに気づきクスクス笑っていると、会長第一秘書からの伝言を持ってきた櫻井に発見され、「薄気味悪い」の発言を受けたのだ。
 今日はクリスマス・イブ。結婚して初めてのクリスマスだ。そのせいで浮かれているのだとでも思われてしまったのだろう。
 だが、“クリスマスで浮かれている”を感じ取ったのは櫻井だけではなかったのだ。
「スケジュール帳を見ているとですね、クリスマスの二日間はアッサリとした予定しか入ってないなぁ、って。面会の予定もないし、会合も入ってないし」
「そりゃあ、みすみす忙しくなりそうなアポなんか入れないだろう。ひとり者でも残業する気にはなれない日だからな」
 美春は手帳の陰からチラリと櫻井を見ると、意味ありげにニヤリと口角を上げた。
「櫻井さんもですよねぇ? なんたって、“家族三人”で初めて迎えるクリスマス、ですもんねーっ」
「ああ、おまけに今日は産後の一カ月健診で異常なしのお墨付きをもらって来たらしいから、やっと一カ月間の禁欲生活から解放されるんだ」
「そんなことまで訊いてませんっ!」

 十一月に妻の冴子が男の子を出産し、三人家族になった櫻井家。
 産後の一カ月健診が異常なしなら、櫻井はさぞホッとしていることだろう。
 ムキにはなってしまったが、結婚して初めてのクリスマスを迎える美春だって、もちろん浮かれているひとりなのだ。
(学、こういうイベントは絶対に外さない人だしなぁ。ちょっと楽しみ)
 今夜は食事に行こうと言われているので、否応無しにロマンチックな夜を期待してしまう。周囲にかこつけつつ、今日明日に入ってきそうな大きなスケジュールを、すべて他へ調整した自分を褒めてあげたい。そんな気分なのだ。
 櫻井に見られたなら、確実に丸めた書類の連打を受けそうなほどご機嫌な笑顔を浮かべたまま、美春は専務室へ向かった。
「失礼いたしまーす、専務-っ」
 浮かれる気持ちは、たとえ上司であろうと愛しい人の元へ行くのだという意識の前に、羽目を外させる。
 結婚して夫婦になろうと、仕事の際はその姿勢を崩さぬ秘書が、まるで家にいる時のような声を出す。自ずと楽しげな心中が窺えると共に、夫の立場としてはキュッと抱きしめてしまいたい気持ちが動くが、ひとまず学は彼女をいじった。
「なんだ美春、随分浮かれて。やーらしいなぁ」
 からかう言葉に、美春は赤くなって反論する。
「なっ、何よ、櫻井さんみたいなこと言わないで」
「櫻井さんにも言われたのか? そんなに前からニヤニヤしてたの?」
「う、うん……」
 そんな言われかたをされてしまうと、本当に自分が馬鹿みたいに浮かれていたかのような気分になる。
 言葉を失い頬の赤みも冷めやらぬまま視線を逸らすと、立ち上がった学がデスクを離れゆっくりと歩み寄ってきた。
「まぁな、今日ばかりは社内もソワソワしてるしな。仕事に身が入らない社員も多いだろう」
 美春の前で立ち止まり、腰に手を当て、彼はヒョイッと恥ずかしげな妻の顔を覗き込む。
「実際俺だって、結婚して初めて美春と迎えるクリスマスが楽しみで堪んないし」
「……本当?」
「本当、本当。もー、張り切りすぎて足腰立たなくなったらどうしようかと今から楽しみなくらい」
「腰っ、ってぇっ」
 不埒な発言を前に、頬の赤みが更に増した美春。学はそんな彼女をキュッと抱きしめる。
「愉しい夜にしよーな、みはるーっ」
「も、もぅっ、どっちがいやらしいのよぉ」
「良いだろ。なんだかんだ美春をからかっていたって、櫻井さんだって奥さんの産後健診明けで張り切りどころだし、須賀さんなんか昨日結婚式だったから、昨日から張り切りっ放しだぞ、きっと」
「もぉーっ! まなぶのエッチっ!!」
 内容の恥ずかしさ半分に学の背をぽかぽかと叩く。ハハハと笑い声を上げていた学だが、ふとその笑いを止め、情熱的に美春を抱きしめた。
「ばーか、一番今日を楽しみにしていたのは俺だ。美春よりも浮かれているんだからな。なんていったって“奥さん”になった美春と、夫婦で迎えられるクリスマスだ」
 待ちかねた日に思いを馳せる学の声はとても甘く美春の外耳道をくすぐり、鼓膜を痺れさせる。必然的にうっとりと彼に寄りかかってしまった美春の髪を撫で、学は更に彼女を蕩けさせた。
「俺、嬉しいよ。思い出になる日にしような」
「うん……。私も嬉しい。夢みたい」
「おい、夢にはしないでくれよ?」
 美春の顎を掬い、唇を近づける。「夢じゃないんだからな」と囁き、彼は熱い吐息と柔らかな唇を彼女に注いだ。

 夢ではないのは分かっている。けれど、夢なら覚めるなと脅してしまいたいほど、美春は幸せなのだ。
 婚約してから、いつかはこんな日が来ると考えてはいたが、それからの道のりが困難であった分、いざ現実になってみるとそれはとんでもなく幸せすぎた。
 婚約する前、たとえば今から十年くらい前に、将来こんなにも幸せな日が訪れるのだとは想像できていただろうか。
 その頃の自分に、十年経ったらこんなにも幸せになるのだと教えてあげたいくらいだ。
(十年前って……、中学二年生?)
 ふと美春は、十年前の自分を思い起こす。そして気づいたのだ。

 十年前の自分が、十年後の未来を思った、クリスマスの日のことを――――。






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