「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛・企画SS集

●『永遠のメリークリスマス』・2(2013クリスマスSS)

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「お前、なんで意地張ってんだよ」
「うっさいっ、意地なんて張ってな……は……はっ……、っくしゅんっ!」
 ――子犬のような、くしゃみがひとつ。
「私がいつ意地なんて……は、は……はっ、……くちゅんっ!」
 ――更にもうひとつ。
「言いがかりもいい加減に……くしゅっ!」
 そしてみっつ目。
 ひとつ目に「可愛い」、ふたつ目に「うわー、弱った顔も堪んねぇー」などと、十四歳思春期の少年らしい不埒な感情に捉われた学ではあったが、さすがにくしゃみ三連発を目の前で披露されては、煩悩よりも心配する気持ちが先に立つ。
 それも、気にかけずにはいられない症状を見せているのは、幼い頃から大好きで大好きで堪らない美春だ。憎まれ口で意地を張られようと、くしゃみをする顔が可愛すぎると胸を高鳴らせようと、心配なものは心配だ。
「ったく、だから家から車呼ぶって言っただろ」
 自分の首からマフラーを外すと、学はそれを美春の首にかける。三度のくしゃみで涙目になっている彼女は、両手で鼻と口を覆い、息が白く濁る外気の中で赤みがかった頬をしていた。
「ほら、巻いてろ。首が温かいと身体に感じる温かさも違うんだ」
 真剣な表情で気遣ってくれる学。その端整な相貌に見惚れる美春だが、つい癖で、照れ隠しを込めた余計なひと言が口をついて出る。
「い、今、マフラーなんか借りたら、鼻水つくよ……。高そうなマフラーなのに……」
「いいぞ、そんなもんならいくらでも付けろ。美春のだったら鼻水だろうと涎だろうと大歓迎だ」
「へっ、へんたいっ」
 幼馴染の暴言を責める口元までカバーできるよう、学はマフラーをふわりと巻きつける。からかいながらもそつのない彼に、美春が本当に怒っているはずもなく、強気であったはずの口調はしおらしいものに変わった。
「……明日のクリスマス・パーティー、行けるかなぁ……」
「来たいなら、熱下げろ」
「うん……」
 瞳が潤んでいるのは、くしゃみだけのせいではない。三十分前に保健室で熱を計った時点で、彼女の熱は三十七度八分。色白な美春の頬が、通常時であるのにいつもより色濃くなっていることに気づいた学が、「なんでもないわよ」と言い張る彼女を無理やり保健室へ連れて行ったのだ。
 熱が高いことから早退をすることになった。保護者に連絡を取って迎えを頼もうとした養護教諭だが、その行動は学のひと言に阻まれる。
「僕が送って行きますよ。光野さんとは隣同士ですし、家の車を呼びますから、大丈夫です。先生のお手を煩わすことはありません」
 成績優秀、品行方正、どんなに重箱の隅をつつこうと付けるべき文句が見つからないとまで言われる完璧御曹司、葉山学。――彼にかけられている信頼は、壮大だ。
 もちろん彼の言い分は認められ、美春は学に送られて帰宅することとなった。

 大企業の“おぼっちゃま”らしく、「家の車を呼ぶ」と言った学の言葉を、「歩けるわよ!」と突き放した美春。
 この程度の熱は大丈夫だと意地を張っているのだと思った学に「意地っ張り」扱いをされてしまったところだった。
 だが、美春にとって、それは学の思い違いでしかない。
 実際、発熱のせいで足元はおぼつかない。だが、それでも美春は歩きたかったのだ。
(……車になんか乗せてもらったら、こうやって、学と並んで歩けないもん……)
 普段から一緒にいることが多いのだから、ふたりで並んで歩くなど日常茶飯事だ。だがやはり、体調が思わしくない時、人間は弱気になる。
 学と一緒にいたい……。
 そんな気持ちから、美春は車を断ってしまった。

「明日までに下げろよ。毎年、お子様シャンメリーで酔っぱらう美春を見ないと、クリスマスっていう気がしない」
「なっ、何よぉ、それっ」
 赤い頬を更に赤くさせ、美春がムキになる。笑って彼女の背を叩き、学はゆっくりと歩き出した。
「下がると良いな。……せっかく、毎年のごとく美春がツリーの飾り付けも綺麗にやってくれたんだから」
「うん……」
 からかっていた口調が穏やかに変わり、学本来の優しさが美春の心に沁みてくる。
 どんなに憎まれ口をきこうと、口喧嘩をしようと、基本的に彼は美春に優しい――。
 明日は十二月二十四日。ふたりが通う私立西海学園中学の終業式だ。
 午後からは、仲の良い友だちを集めたクリスマス・パーティーが葉山邸で予定されている。幼稚園の頃から毎年恒例の行事であり、学も美春もこの日を楽しみにしているのだ。
 友だちとのクリスマス・パーティーだから、という理由だけではない。パーティー終了後、残ったお菓子やケーキでふたりだけの二次会をするのが習慣だ。
 それが、一番の楽しみなのだ。

(下がるといいな……。学と、クリスマスしたいな……)
 儚い望みをかけて回復を願ったが、結局美春の熱は下がらず、彼女は楽しみにしていたクリスマス・パーティーのみならず、終業式さえ欠席し、そして、何よりも楽しみにしていた学とふたりきりのクリスマス・パーティーも、諦めざるを得なくなってしまったのだ……。 

 *****

「三十七度二分……」
 体温計を確認し、美春はふうっと吐息した。
 昨日から、一時は八度五分まで上がった熱、それがここまで下がってくれたことに安堵しながらも、漏れる吐息はほぼ溜息だ。
「……クリスマスなのに……」
 ポツリと出る不満は自分への愚痴。よりによって、せっかくのクリスマス前日に熱を出してしまった自分。やっと下がったと思えば、もう二十四日の十七時も近い。午後から始まっていたパーティーも、そろそろお開きの時間だろう。
 だが、彼女の不満はそこではない。
「学と、クリスマスしたかったな……」
 クリスマス・イブという、誰もが心躍るこの日。好きな人と一緒にいたいのは当然ではないか。それは、幼い頃から変わらない気持ちだ。
 学も今頃は、友だちと楽しい時間を過ごしている最中だろう。結局参加できなかった美春のことも、今は忘れてしまっているに違いない。
 ベッドに埋まりっ放しだった身体をゆらりと起こす。グラリ揺れる視界を補うように手で額を押さえ、瞼を閉じた。
「……学……」
 閉じた瞼が熱くなる。自分はこんなにも学に会いたくて学と一緒にいたいのに、彼は今頃美春のことなど忘れているのだろうと思うと、切なくて瞳が潤んでしまうのだ。
 楽しみにしていた日を前に発熱などしてしまった自分が悪い。分かってはいるが、切なくて、こんな自分が悔しすぎる。
「……会いにきて……、学……」
 口から出てしまうのは、願望混じりの我儘。
 なんだかんだと言いながら、気が付けばいつも美春の我儘も希望もすべて叶えてくれている学への、届かぬ身勝手な私心。
(我儘だ……。私……)
 そして訪れる自己嫌悪。病気のせいで気弱になってしまっているせいもあるが、美春は妙に物悲しかった。
 ――と、そんな彼女の耳に、決して気のせいにはできない物音が、入りこんだのだ。

 カタン……カタ……カタ……、カタンッ……。

 ベランダをのぼってくる、“足音”が……。






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