「理想の恋愛 完璧な愛・シリーズ(第7部~第11部)」
理想の恋愛・企画SS集

●『永遠のメリークリスマス』・3(2013クリスマスSS)

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(まさか……)
 潤んだ瞳を大きく見開き、美春は顔を上げる。彼女の視線は、部屋の大きな窓へと引きつけられた。 
 眩暈も忘れてベッドを下りる。そして窓へ駆け寄った時、その向こうに広がるベランダから、サンタクロースよりも嬉しい人物が彼女の前へ姿を現した。

「メリー・クリスマス、美春」

 窓に張り付く美春を見つめ、ここを開けてと言わんばかりにコンコンッとガラスを叩く。見飽きてしまうほど見ているはずなのに、やっぱり見惚れてしまう秀麗な微笑みをくれる人。
「……学」
 呆然としてはいられない。美春は慌てて解錠し窓を開けた。
 そこには、パーティーのホスト役に相応しく、カジュアルなベストスーツを品良く着こなした学が立っている。そして彼は、腕にかけていた大きなピンクのショールを広げ、美春の身体をふわりと包んだのだ。
「ほら、プレゼント。あったかいだろう? どうしても美春にあげたくてさ、パーティー抜けてきた」
 ベビーピンクが可愛らしいバーバリーチェックのショール。昨日学に借りたマフラーと同じくらい柔らかく温かい。
 ショールが美春を包み、更にその上から学の腕が巻きついた。
「熱はどうだ? さっき電話でエリさんに七度五分まで下がったって聞いたんだけど、大丈夫か?」
「う、うん……」
 更に下がって七度二分であることを教えたかったのだが、軽く抱擁されているせいで確実に熱は上がっている。鼓動の高鳴りに胸を熱くしていると、学の手が大袈裟に背中をさすった。
「んーっ、制服の上からより、やっぱパジャマ一枚のほうが肌の感触が生々しくてイイなぁ」
「放せっ、エロ男っ」
 条件反射で突き放すものの、彼の腕が離れた途端にグラリと身体が揺らぐ。倒れてしまうかと焦りを感じた瞬間、すかさず学の腕が美春を支えた。
「ほら、熱が下がりかけているのは良いことだけど、無理はするな」
「……学が……、変なこと言うからでしょ」
「そうやって突っかかってこられるなら、心配はいらないかな」
 落ちかかったショールを彼女の身体に巻き直し、学は美春を姫抱きにして抱え上げる。彼に抱きかかえられるのは初めてではないが、彼が恋しくて切ない気持ちに捉われていた後だ、その分、鼓動は痛いくらいに胸を叩きだした。
 そして彼は、更にドキドキが加速する提案をしたのだ。
「明日さ、ふたりでクリスマスしようぜ」
「明日?」
「美春、ウチのシェフのサンドイッチとか好きだろ。病み上がりでも食が進みそうな物用意してもらうからさ。俺も、美春お気に入りの洋菓子店でミルフィーユ買ってきてやるから。んで、今日話題になった田島の気の毒な失恋話とか聞かせてやる」
「何それ」
「このクリスマスを目の前に、年上の彼女にバイバイされた話。今もまだその話で盛り上がってるんじゃないかな」
 話は進むが、いつまでも窓を開けっ放しにしておくわけにもいかない。学はいつものようにベランダで靴を脱ぎ室内へ入ると、美春をベッドの上に下ろしてから窓を閉めに向かった。
 美春がずっと横になっていたせいもあるが、部屋の電気は点けられていない。薄闇の中で煌くのは、サイドボードに飾られた小さなファイバーツリーの光のみだ。
「話の途中だったけど、抜けてきた。――美春の顔、見たくてさ」
 気になる言葉を呟いた学が振り返る。ツリーの彩光の中に浮かぶ彼は、その煌きよりも美春の心に輝きを落とした。

(反則だよ……、学……)

 身体が弱って心も弱っている時に、こんな誤解をしてしまいそうなセリフは反則ではないか。
 学はフェミニストで、基本的に女性に対して優しい。だが、その中でも美春は特別扱いをしてくれる。幼馴染ゆえの特権だと自分に言い聞かせながらも、時々自惚れてしまいたくなるというのに……。

「見飽きてるでしょう? こんな顔」
 それでも、美春はいつもの癖で憎まれ口をきいてしまう。
 素直に言えたならどんなにか良いだろう。「嬉しい」と。「私も学の顔が見たかったんだよ」と。
 言えない歯痒さ。伝えられない本心。こんな意地っ張りな自分が、時々悲しいほど嫌になる。
 幼かった頃のように、心から素直にこの気持ちを晒してしまえたら、どんなに幸せだろう。
 ――――大好き。学。と……。

「美春はさぁ、俺の顔、全然見飽きてないだろう?」
「な、何よ、その自信はっ」
「こんなイイ男、一生見てたって飽きるわけがない」
「自信過剰っ。あいっかわらず超自信家ね」
「そうだよ。……だからな……」
 ベッドへと歩み寄った学は、美春の前に両膝をつき、両手で彼女の頬を包んだ。
「お前が俺の顔見飽きないのと同じようにさ、こんな可愛い顔、俺だって一生見てても飽きねーよ」
 治りかけの美春を元気づけようと、気を遣っているのだろうか。それともこれは、学得意のリップサービスなのだろうか。まだ十四歳の彼、変に背伸びをした雰囲気も出さず、こんな気障なセリフもキチンと決まる。
 それが学という人間なのだと、美春は誰よりも分かっているはずなのに、それでもこの雰囲気に自ら呑み込まれたくなってしまうのだ。
 彼女の戸惑いを見て取った学。――よせば良いのに、彼は調子にのった。
「――だからさ、美春」
「……ん?」
「キスしようか」

 病人とは思えぬ素早さで、学の手から逃れ右手を振り上げる美春。
 その意味を悟り危機を感じ取った彼は、振り下ろされかかった手を素早く掴んだ。
「あんたはぁぁっ! 調子の良いことばっかり言ってると思ったら、やっぱりそうくるかぁぁっ!」
「待て! 落ち着け! 美春っ!!」
「ホントにもう、このエロ男がぁ!」
「落ち着け! 熱が上がる!!」
「そしたらあんたのせいよ、アホっ!」
「熱が上がったら、つきっきりで看病に来るぞ! 寝てボーっとしている間に色んなことするぞ!」
 攻撃しかかる右手は抑えていたが、左手はフリーだ。次の瞬間、美春はその左手で学の側頭部を張り倒した。
 少しグラつく程度かと思っていたが、予想に反して学の頭は大きく傾ぐ。驚いて動きを止めると、彼は喉の奥で含み笑いを漏らした。
「なんだよ、結構元気になってるな、これなら、明日一緒にクリスマスできそうだ。安心した」
 掴まえていた手を放し、叩かれて乱れた髪を掻き上げ、学は美春の肩にショールをかけ直す。
「寒くするなよ。俺にとってのクリスマスはさ、美春といないとクリスマスっていう気がしないんだ。ずっとずっと、クリスマスはお前と過ごすって決めてるんだからな、俺は」

 冗談を言って、からかって。彼が元気づけようとしてくれているのが分かる。
 楽しみにしていたクリスマス。熱を出して落ち込んでいるだろうと。――おどけたり、冷やかしたり。
 いつもは軽く流せる学の気障なセリフや、イイ男を気取った態度も、なぜか今日は心と身体に沁みてしまう。
 彼を照らすファイバーツリーの彩光のように、煌く想いを美春の心に落としていく。
 自分と同じように、学も、美春を特別な存在として心の中に置いていてくれているのではないか。――――そう、誤解したくなる……。
「……十年後も、……同じこと、言ってるのかな……」
 自分の思い上がりが哀しくなってしまう前に、美春はポツリと呟いた。







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