恋のエトセトラ

●『プラトニック・ヴァージン』(キリ番299万9999リクエスト) ・2

 ←第一章・年下は嫌いです!/1 →『休憩室』立ち読み公開です!

 庄司亮介《しょうじりょうすけ》君は、母の妹、私の叔母に当たる人の子供。彼が八歳の時まで、叔母一家は近所に住んでいた。
 あの頃は本当に小さくて泣き虫な男の子だった。お互い兄弟がいなかったので、亮介君は「美奈姉ちゃん」と私を呼び、懐いていたのだ。
 仔犬みたいな、かわいらしい小さな男の子。
 私の中の亮介君は、いつまでも八歳のままで、成長する姿など考えたこともなかったというのに。
 目の前に現れた彼は、背も高く男らしくて、まるで別人だ。

「そういえば美奈姉ちゃん、結婚するんだってね」
 彼の口でその話題を出されると、なぜか胸がズキリと痛む。
「うん……、まぁね……」
 一週間の宿として提供した客間。座卓の上に広げられたアンダーラインだらけの参考書の上にシャープペンを投げ、亮介君は正座を崩し休憩態勢に入る。横に腰を下ろした私の顔を、探るように覗きこんできた。
「どんな男?」
「どんな……、って」
「美奈姉ちゃんの結婚相手のこと、教えて」
 拗ねた声を出した彼を前に、私は小首を傾げる。
 勉強中の彼にアイスコーヒーを持ってきてあげたのだが、なんだか変な話になってしまった。
 亮介君が来て三日目。こんな声を出したのは初めてだ。

「結婚式の時に見れば分かるよ。普通の人。……優しくて、真面目で、顔もそこそこ」
「――エッチも上手い?」
 刹那の沈黙。けれど私は、すぐに手の平で亮介君のおでこを叩いた。

「なにを訊いてんのよ、馬鹿ね」
「だって、大事なことじゃん。そういうのって、男を選ぶ時の条件に入ってるんだろ?」
「必ずじゃないわ。その人によるわよ」
 もぅ、なんてことを訊くんだろう。まだ十八歳のくせに。

「でも、男の立場から言えばさ、一緒に感じてくれる女のほうがいいし、そういう女と一緒にいたいって思うから、気持ち好く抱ける女っていうのは、結婚相手の条件に入れたいけどなぁ」
「まだ、そんなこと考える年じゃないでしょっ」
 もう一度彼のおでこをペンッと叩く。亮介君は二度も襲撃を受けたおでこを手で押さえて「へへ」と笑った。

 まだ……?
 違う。亮介君は“もう十八歳”なんだ。
 そういうことに興味もあるだろうし、経験していてもおかしくない年齢。
 私だって、十八歳の頃は人並み程度に興味はあったし、経験済みの友だちの話をドキドキしながら聞いていた。

 ――――亮介君は、セックスしたこと、あるんだろうか……

 どくんっ……

 大きな鼓動が胸を波打たせる。一気に体温が上昇していくのが分かった。
 私の視線は、無意識のうちに亮介君を舐めるように眺める。サラサラの黒髪から、顔を、身体を、彼を形作るパーツのひとつひとつを。
 楽しげに笑うあの唇と舌で、彼は女に触れたことがあるのだろうか。
 髪を掻きあげるあの手や指は、女の肌をなぞったことがあるのだろうか。
 広い胸板は、女の身体を抱き入れたことがあるのだろうか。
 鎖骨から落ちる視線はTシャツの裾を見詰める。ジーンズの腰で止まった妄想は、口には出せない淫らな感情を私にもたらした。

 ――――抱イテミタイ……

 ……ハッとして首を振る。
 なにを考えてるんだろう、私……
 自分の思考が怖くなる。
 なんということだ、私は亮介君に……欲情している。

 この十八歳の少年に、最近達彦に感じられなくなった性欲を煽られているのだった。

「りょ、……亮介君はさ、彼女とか……、“そういうコトする女の子”いるの?」
「……いるよ」

 何気なく返された言葉に、心の炎が燃え上がる。
 それは、どこか嫉妬のようにも思えた。

 嫉妬?
 ううん、違う。この熱は……

「痛てっ!」
 おでこに三度目の襲撃を加えた私を、さすがに亮介君はムッとした顔で見た。
「なんだよ、美奈姉ちゃん」
「なにが、『いるよ』なのよ。簡単に答えるんじゃないわよ、まったく、最近の子はっ」
「訊くから本当のこと言っただけじゃん。それに、美奈姉ちゃん、オバサンくさいよその言いかた、『最近の若い子は~』みたいでさ」
「うるさいっ」
 そして四度目の襲撃を加えようとした私の手は、素早く亮介君に掴まれる。
「何度も同じ手は食わないよーだ」

 爽やかに笑む口元。
 握り締められた手が熱く、そこから伝わる熱が身体中を疼かせる。
 それは燃え上がった心の炎と混じり合って、私の欲望を鮮明にした。

 ――――亮介君ニ、抱カレテミタイ……

「さあさあ、馬鹿なこと言ってないで勉強しなさいよ。せっかくゼミにまで通わせたのに成績落ちたなんてことになったら、叔父さんと叔母さんに申し訳ないわ」
 いささか無理やり彼の手を外し、私は顔を逸らしたまま立ち上がる。部屋を出ようとした背中に、呟くような彼の声がかかった。
「美奈姉ちゃんさぁ……」
「え?」
 もったいぶった口調につい振り返ると、彼はアンダーラインだらけの参考書に視線を落したまま疑問を投げてきたのである。
「彼氏と、上手くいってんの?」
「……どうして?」
「うん……、なんとなく……」
 彼の視線は動かない。まるで、その疑問をアンダーラインの難問と同化させているかのようだった。
 そこに答えを書きこませないまま、私は無言で部屋を出る。
「……結婚前の女に……、不毛なこと訊いてるんじゃないわよ……」
 声に出して反論してみるものの、彼の前でそう啖呵を切れなかった自分に、切ない気持ちだけが込みあげてきた。





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