年下ですが貴女を好きになってもいいですか

第二章・年下は気持ち好いです!/3

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 人ごみから外れ、ネオンの光に脚色された夜空からふたりが身を隠したのは、一見シティホテル風の外観を持った建物だった。
 とはいえ、そこがラブホテル的な役割を持つ建物であることには変わりがない。人目を忍ぶような狭い廊下から部屋へ入り、ドアの横に設置された会計用のエア・シューターを目に、美涼は苦笑いをする。
 室内は全体的に薄暗く、大きなベッドの頭側の壁についたライトだけがひときわ明るく灯っている。まるで“メインはここだよ”と言っているかのようだ。
 少し意外だと思ったのは、室内がシンプルで、どちらかといえば地味な雰囲気であること。
 琉生のようにイイ男を気取って“遊んでます”風の男なら、いかにもセックスを楽しむために作られた派手な部屋があるホテルを選ぶのではないかと思っていた。
(ちょっとした偏見かな)
 ドアの前に立ったまま室内を眺める。そんなことを考えていると、左右を腕でふさがれ、琉生が顔を覗きこんできた。
「なんでつっ立てるんですか? もしかしてー、隙を見て逃げようとか、無駄な抵抗しようとしてます?」
 薄笑いを浮かべ怒っているような口調なのに、目の前にある彼の顔は不安げに見える。美涼が『やっぱりやめる』と言って出て行くのを心配しているのだろうか。
 そう考えると、なんとなくくすぐったい気持になって美涼は苦笑した。
「違うわよ。あんたみたいな男にしては地味なセレクトだなって」
「派手な所のほうが好み?」
「別に……。部屋が派手だろうと地味だろうと、することは同じだもん」
「美涼さん、正直」
 小さく噴き出したあと、笑ったまま琉生の顔が近づいてくる。そこから繋がる流れを察して、美涼は自然と瞼を閉じた。
 唇に、温かな感触が触れる……
 琉生は唇を押しつけたあと数回軽く吸いつき、繰り返すうちにできていく美涼の唇の隙間へ舌を挿し入れた。
 それに応えて彼女が舌を触れ合せると、琉生がクスッと笑ったような気がする。
「美涼さん……積極的……」
「……からかうんなら、やめるわよ」
「やーだっ」
 途中で入る冷やかしにひとこと入れると、琉生はおどけた口調で反発し、強く唇を合わせながら美涼の身体を抱きしめた。
 さっきとは違う濃厚なキス。首の角度をゆっくりと変えながら吸いついてくる唇は、熱い吐息で美涼の口腔を満たし、舌を絡め回して彼女をリードする。
「……ん……、フ……ゥ……」
 その激しさに戸惑う吐息が鼻から漏れる。両手で琉生の腕を掴み、少しでも唇を離して『がっつくんじゃないっ』と文句を言ってやろうと思うが、唇どころか顔も離れない。
 しっかりと腰を抱き、後頭部を押さえられているので、美涼はピクリとも動くことができなかった。諦めて身体を預けていると、油断した舌を唇でしごかれビクッと震える。
「……かーわいーい。震えた」
 案の定、琉生から冷やかしの声がかかった。睨みつけたつもりだったが、キスの余韻で息が乱れ、困った顔になっているのではないかと思う。
「つ、強くされたら、……ビックリするものでしょう」
「それだけ?」
「なにが?」
 クスリと笑んだ琉生の唇が耳元へ寄せられる。美涼の耳輪を舌でなぞり、彼は甘ったるい声を落とした。
「……感じたんだと思った」
 囁きかけられた耳の刺激に反応して、反射的に片方の肩が上がる。そんな美涼を抱きしめ、琉生は大きく息を吐いた。
「あーっ、美涼さんかわいいっ。なんかもう、かわいすぎるしっ」
「か……からかうな……ばかっ」
「ほんとですってば。もー、この場ですぐ押し倒しちゃいたいくらい」
「シャワーくらい使わせなさいっ。意地汚くがっつくんじゃないのっ」
「はーい」
 意外にも素直な返事をして、琉生は美涼を解放する。肩からずり落ちかかっていた彼女のバッグを取り、部屋の中央にある小さなソファに置いた。
「美涼さん、シャワーお先にどうぞ」
 スーツの上着を脱ぎながら琉生が振り向く。「あ、うん」と何気ない返事をすると、彼は意味ありげににやりとした。
「いきなり入っていったりしないから、安心して」
「なっ……、入ってきたら、足じゃない所蹴り上げるからねっ」
「美涼さんが言うと冗談に聞こえない」
 笑い声をあげ、ネクタイを緩める琉生から目をそらし、美涼はバスルームへと向かう。背後から「そのうち一緒にはいろーね」という楽しげな声が聞こえる。美涼は照れながらも、ふんっと鼻を鳴らした。
「……生意気なのよ……もぅっ……」
 不満を呟く唇……
 けれど、その唇が琉生の余韻を残して熱いままであることを、彼女自身が知っている……

   *****

 美涼がバスルームへ入っていくのを見送り、琉生はズボンのポケットからコンドームの箱と試供品を取り出した。
 それを手にベッドへ向かい、苦笑いを漏らす。
「これ見よがしに全部広げておいたら、引かれるよなぁ……」
 呟きながら枕の下に隠し、彼は先程言った自分の言葉を思いだしてクッと笑いを詰まらせた。
「ほんとにさ……、これじゃぁ足りないんだよな……。でもさすがに、一晩で全部は使えないな」
 そして、ふと真顔になる……
「……いくら……、一年半待った……っていったって……」
 軽薄な影が消えた目を切なげに細め、琉生は片手で唇を覆った。
 ――美涼をからかっておきながら、彼女の唇に触れて、滾るほど感じたのは自分のほう……
 全身の血液がわきあがって、気絶するかと思った。
「……美涼さん……」
 唇だけが酷く熱い。いっそ頭から冷水をかぶってしまいたいくらいだ。
 今からこんなに取りみだしていてはいけない。琉生は逸る気持ちを少しでも落ちつけようと目を閉じる。
 しかし、そこに映りこんだのは、嬉しそうにはにかむ美涼の笑顔。彼女が、琉生の心に辛い現実を思い知らせた、あの日の光景。
『なによ、美涼。黒ビールなんて誰に飲ませてもらったのよ。白状しろ、こら』
 千明にからかわれて笑う美涼。恥ずかしそうに、……嬉しそうに。
『内緒っ』
『あーっ、あやしいぞー。なにそれー』
 美涼はそれ以上詳しいことを口にはしなかった。しかし、言わずとも恋人の存在を漂わせていることは、こっそりと見ていただけの琉生にも分かったのだ。
 ――ショックだった。美涼には、恋人がいる……
 琉生は息を詰める。動揺に速まる鼓動で自分の身体が壊れてしまいそうだと感じながらも、目は美涼の姿を追い続けた。
 そして、自信が持てないあまり、告白する勇気を出せなかった自分を、哀れんだ――
 手で覆っていた唇を強く結び、琉生は奥歯を噛みしめる。瞼を開け、枕の下に隠した物を表に出した。
「もう……隠す必要なんて、ないよな……」
 緩めていたネクタイを解き、バスルームの方向へ目を向ける。
 自分に自信を持って生きている。美涼に言った言葉は、嘘でもふざけたものでもない。自分に自信を持とう。――琉生は、あのときそう決めた。
 もう二度と、後悔をしないために……

   *****

 入っていかないとは言ったが、あまり信用はしていなかった。
 しれっとして『一緒にはいろー』とバスルームへやってくるのではないかと思っていたのである。
 しかし予想外に、琉生が入ってくることはなかった。
(本当に蹴り上げられるとでも思ってたのかしら)
 素肌にタオル一枚を巻きバスルームを出る。琉生はどこにいるかと思えば、ベッドの端に腰かけているのが目に入った。
「いいよ。出たから、あんたも……」
 歩きながら話しかけた美涼の言葉は途中で止まる。顔を向けた琉生の表情が、とても真面目なものだったのだ。
 その顔を見つめながら近づくと、腕を掴まれた。
「……おかえり……。美涼さん……」
「あ……、入っておいでよ……。気持ち良かったよ」
「うん」
 返事をする琉生に腕を引っ張られ、美涼はベッドに倒れこみそうになる。バランスを崩した彼女の身体は、そのまま彼の腕の中に抱きとめられた。
「美涼さん……あったかい……」
「シャ、シャワー使ったばかりだから……。ほら、あんたも綺麗にしておいで」
「うん」
 またもや素直な返事をするが、琉生が動く気配はない。それどころかより一層、美涼を強く抱きしめた。
 シャワーを使う時間を我慢できないくらい興奮しているのだろうか。それにしては、昂りのあまり急いてしまう様子は見えない。琉生はただ、包みこむように美涼を抱きしめている。
 戸惑いを感じ始めたとき、彼の唇が迫ってきた。キスをしたまま、美涼の身体はベッドへ横たえられる。
 このままなだれこむつもりなのだろうか。琉生はシャワーも浴びていないのに。堪え性のないことだ。これだから年下は……
 ――そう、バカにすることだってできたのに……
「……美涼さん……」
 囁く声が甘い。触れる唇が、とろけてしまいそうなほど熱い……
 閉じかかった視界の端に、枕元に放置されたコンドームが映りこむ。
 美涼はされるがまま、不思議と、抵抗する気が起きなかった。


*次回更新、10月1日予定。






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