年下ですが貴女を好きになってもいいですか

第三章・年下はしつこいです!/2

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「ど……堂嶋君……」
 フロントガラス越しに見える、ちょっと軽薄な笑顔。それは間違いなく琉生だ。
 驚いて立ち止まった美涼を見て、ふと表情を変える。それが嬉しそうにはにかんだ笑顔に見え、美涼は不覚にもドキリとした。
 すると、琉生が運転席の窓から顔を出したのだ。
「おっはよーございまーす。乗ってくださいよ美涼さん。仲良く一緒にイきましょー」
 感じたばかりのドキリが冷めるほどの軽口。『行きましょう』と言うべきところのイントネーションが、明らかに違う。
 思わず琉生に冷たい視線を送り、美涼は顔をそらして返事もせずに歩き出した。
「あ、あれ? 美涼さーん?」
 彼女の態度に驚いたのか、琉生は慌てて車であとを追い始める。スタスタと歩く彼女を追い越さないスピードで走り、話しかけ続けた。
「遠慮しなくていいんですよー。乗ってくださいよー。電車より楽ですよー」
 美涼は完全無視で歩き続ける。今朝、家の前まで送ってもらったのは間違いだったのかもしれない。どうやら家を覚えられてしまったようだ。出てきた途端に現れたということは、待ち伏せをしていたのだろう。
「美涼さーん、今朝は一段と綺麗ですよー。お肌ツヤツヤっ。そんな色っぽい美鈴さんが電車になんか乗ったら危ないですー。なにかあったらどうしようって想像したら、俺、心配で心配で、興奮しちゃうじゃないですかー」
 朝っぱらから不埒な言動。美涼は睨みつけそうになるが、琉生が待ち伏せをしていたというところに引っ掛かり足を止めた。
(待ち伏せって……、いつから……)
 彼女が考え込んでいるうちに、琉生は車を停め運転席から出てくる。素早く美涼に近寄り、背を促して助手席側のドアを開けた。
「どうぞっ、美涼サンっ」
「……あんた、いつからいたの?」
 そう言っただけで、琉生には意味が分かったようだ。軽薄な笑顔を少しだけはにかませ、答えた。
「美涼さんが出てくる、一時間くらい前からかな」
 美涼はかすかに目を見開き、琉生を凝視する。そうしているうちに上手く助手席に座らされ、ドアが閉められた。
 すぐに琉生も運転席へ乗り込んできたが、なにを思ったのかいきなり美鈴に覆いかぶさってきたのだ。
「ちょ、ちょちょちょっ、なにっ、こんな所でっ、ダメっ!」
 すると彼は、何食わぬ顔で美涼のシートベルトを引きながら身体を離した。どうやら装着してくれようとしただけらしい。それを誤解して目を見開いている美涼と顔を見合わせ、琉生はにやりとした。
「なんか、期待しました?」
 むかっとすると同時に頬が熱くなる。反射的に、留めてもらったばかりのベルトを外そうと手をかけた。
「降りるっ」
「冗談ですよー。やだなぁ、もぅっ。……なんて、半分は本気だったんだけど」
 美涼がシートベルトを外す前に、琉生はアクセルを踏んだ。ブォンッと派手な排気音がし、それに驚いた彼女が身体を固める。その隙に車は走りだした。
「い……一時間も前から待ってたとか……、あんた、馬鹿じゃないのっ。私がすぐ出てこなかったら、どうするつもりだったのよ。待ってるうちに車の中で寝ちゃって、気が付いたら遅刻寸前だった、とか。ありえるじゃない」
 なんとなく琉生のペースに持っていかれているのが悔しくて、美涼はムキになって言葉を返す。
 それに対して琉生の反撃はない。閉口したのかと一瞥したが、彼は困るどころか前を見たまま微笑んでいた。
「――美涼さんは……疲れてたって寝不足だって、今日は絶対に早く出社するだろうって思ったんです。……沢田の仕事、今日の提出前に見てくれるって言ってたし。おそらく沢田が出社してくる前にチェックしてくれるつもりなんだろうなって」
 美涼は息を呑んだ。まるで彼女の気持ちを読み取っていたかのように、琉生はすべて言い当てていく。
「美涼サンってー、そーいうカッコイイ先輩ですからねぇー」
 せっかく真面目に話していたのに、彼は途中でいつもの軽薄さを出して言葉を繋いだ。
 大嫌いな態度なのに、怒ることも睨むこともできない……
 琉生の態度が、なぜだか彼の照れ隠しのように見えてしまったのだ。
「……生意気……」
 ポツリ呟き、美涼は前を向く。琉生がクスリと笑ったように思ったが、彼の顔を見ることはできなかった。
「ねぇ、美涼さん、今日も誘っていいですか?」
「どうして? 飲みになら昨日行ったでしょ」
「だからー、今夜も行きましょうよ」
「やだ」
「はっきり言いすぎーぃ」
 琉生がアハハと笑う。彼は、ただお酒を飲みに行きたいだけの理由で誘ったのだろうか。それとも……
 そんな深読みが、美涼の鼓動を大きくした。
「昨日だけじゃ足りないから、続きヤろー、とか思ったんですけどねーぇ」
「どんだけサルなのよ、あんたはっ!!」
 深読みの内容をストレートに言われ、美涼は思わず琉生の腕をバンッと叩く。運転中でなければ足を蹴飛ばしてやりたいところだ。
 美涼は何気なく足元に視線を落とし、ふと気がついて車内を見回した。
「ねぇ」
「はい?」
「あんた、もしかして車に異常にお金かける系の男?」
「どうしてですか?」
「私、あんまり車のことはよく分かんないんだけど、これ、結構いい車なんじゃないの? 広いし、綺麗だし、なんていうか滲み出る高級感っていうか。いい車でございますって雰囲気が伝わってくるんだけど」
「イイ車ですよーっ。本体価格が一千万とか言ってたし」
「いっ……いっせんまっ……ってぇっ! あっ、あんた、なに無駄な贅沢してんのよっ! ま、まさか、車に夢中になりすぎて借金まみれ系の人なのっ!?」
 価格に驚くあまり、美涼はドア側にはりつく。そんな彼女とは反対に、琉生は軽く楽しげに笑った。
「なんですか、さっきからー。美涼さんの、その“ナニ系”の分類、おっかしーですよー」
「うっさいっ! あ、あんたねぇ、人生やり直すなら今よ。テレビでもよく弁護士さんが『ご相談ください』ってやってるじゃないっ」
「やめてくださいよー。自慢だけど俺、今まで借金したことなんてないんですから」
「で、でも、車……」
「従兄にもらったんですよ。結婚した従兄が、子どもができて車を買い換えたんで」
「従兄……?」
 なんとなくホッとする。少々慌てすぎていたことに気づいて恥ずかしくなった。
 しかしこんな高級車をポンッとくれるとは、気前のよすぎる従兄だ。
「いつもは乗んないんですけどね。今朝は美涼さんを迎えに行くのに、かっこつけたかったんです。いっそいで車磨いて乗ってきたんですよ」
「な、なにそれ。一時間前から待ってたとか、車を磨いてたとか、あんた、寝る暇あったの? なにやってんのよ、馬鹿じゃない」
「馬鹿ですよー」
 冗談口調で肯定し、信号で停まると琉生はにこりと微笑みを向ける。
「美涼さんのためなら、馬鹿でもアホでもなりますよ」
 ――――本当に、馬鹿だ……
 そうやって心の中で琉生を貶し、美涼は自分の感情を抑えるしかない。
 抑えていなければ……。なにか、違う感情が動いてしまいそうで……
「……かっこつけてばっかり……。馬鹿みたい……」
「はい、馬鹿ですよ」
「大馬鹿」
「はい」
「迎えにまで来て……。しつこいよ」
「はい」
「しつこすぎ……」
「はい……だから……」
 美涼の声はだんだんと小さくなっていく。最後に琉生がなにかを言ったようだが、ちょうど車が動き出し周囲の音も混じって聞こえなかった。
 ふたりはそのまま無言になる。会社へ到着するまでその状態は続き、美涼はなんともいえなく気まずい気持ちになった。
 なんにしろ、琉生は美涼を気遣って迎えに来てくれたのだ。そこに下心があろうとなかろうと、お礼は言っておいたほうが良いだろう。
 会社へ到着し、車は本社ビルの地下駐車場へ入っていく。利用者は各自に割り当てられた場所があり、琉生も入社のときから車での通勤なので、自分の駐車スペースを持っていた。
 考えてみると、高級車をもらって凄いという思いはあれど、今まで持っていた車もあるというのに維持費が大変なのではないだろうか。
 そんな余計な心配をしているうちに、車が所定の位置に停まった。
「あ、あのさ、堂嶋君。迎えに来てくれてありがとう。早く着いたし、言っていたとおり電車より快適だったわ」
 シートベルトを外しながら礼を言う。すると、琉生もシートベルトを外し、美涼の腕を掴んだ。
「そうでしょう? 快適だったでしょう? って、わーけーでぇ、帰りも送りますねー」
「そっ、そこまでしなくていいっ。本当に送ってくれるのか怪しいところだしっ」
「あっ、どっかに連れ込まれるとか思ってる? 信用ないの? 俺」
「ないっ」
 楽しそうにくすくす笑う琉生の手を振りほどくが、今度は両肩口を掴まれシートに押しつけられた。
「ちょっ……」
「美涼さん、俺、しつこいよ?」
 口調が真面目になり、ドキリとする。直後琉生の顔が近づいてきて美涼は慌てて横を向くが、そのまま頬にチュウッとキスをされ驚いて前を向いた。
「隙あり」
 その言葉と同時に、琉生の唇が今度は美涼の唇に重なる。
「……さっき言ったでしょ? ……今日も頑張れるお守り、もらいますよ……」
 さっきとはなんだろう。もしかして、信号で車が出るときに聞き逃した言葉だろうか。
 琉生の唇は、何度も付いたり離れたりを繰り返す。そのなかで、彼はぽつりと呟いた。
「……好きです……」
 ――――美涼は、本当に動けなくなった……


*次回更新、1月14日予定







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