年下ですが貴女を好きになってもいいですか

第四章・年下はやっぱり嫌いです!/3

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「堂嶋く……」
 ドキリとして、なぜか血の気が引いた。
 そんな自分を美涼は落ち着かせようとする。
 なにも焦ることはない。琉生も今帰社したところなのだろう。コーヒーを買いに来たら、国枝と美涼が話しているところを見かけた。
 それだけだ……
 なのに美涼は、この状況に焦りを感じる。見られてはいけないものを琉生に見られてしまったような、そんな感覚に襲われた。
 美涼から取りあげた缶をテーブルに置くと、琉生は無言で彼女の腕を引っ張る。美涼はその勢いで立ち上がり、引かれるまま足を進めた。
「ちょ……ちょっと、堂嶋く……」
 速足で歩く琉生にぐいぐいと引っ張られ、美涼は立ち止まることも手を振りほどくこともできない。足がもつれそうになりながらも、彼についていくしかなかった。
 廊下を奥へ進み、ひとつ曲った場所にある資料室のドア。先が行き止まりなので、この周辺は用事がある人間以外くることはない。
 ドアを開けると、照明が点いていないので利用者がいないと分かる。琉生はそこへ美涼を押しこみ、ドアを閉めて施錠した。
「ちょっ……なに……」
 いきなりこんな場所に連れてきてなんのつもりかと問い質そうとしたが、美涼がはっきりと言葉を出す前に琉生が詰め寄ってくる。
「なんの話をしていたんですか、主任と」
「な……なんの話……って……」
「楽しそうに笑い合っちゃって。なんなんですー? 最低最悪で呆れ果ててたんじゃなかったんですかー?」
 こんな状況であるのに、美涼はふと、琉生に不自然なものを感じた。
 口調は軽いが、なんとなく無理をしているように思える。口元は上がり嘲笑の形を作っているというのに、それが似合わないくらい彼の目は真剣だ。
(……どうして……無理してるの……)
 そんな疑問が浮かびあがった。この不自然な感覚のせいだろうか。琉生が無理にいつもの軽さを出そうとしているように見えてしまったのだ。
「い……色々とよ……。妹のこともあるし……」
「だーかーらーぁ、その妹ちゃんの件で、自分には一切かかわるなって約束をしたんでしょう? 一昨日あれだけ文句を言っておいて、あれってなんだったんですか」
「ちゃんと話し合えば分かりあえることだってあるでしょう。妹を想ってくれている気持ちが中途半端なものじゃないって分かったから、嬉しかっただけよ」
「ふーぅん……。それで、見直した、とか言うんですかぁ? 随分と早い変わり身ですねー」
「か……変わり身って……」
 美涼の中の戸惑いが苛立ちに変わり始める。詳しい事情を知りもしないで一方的につっかかられては、因縁をつけられている気分になるだけだ。
「なんの話をしていたのか聞きもしないで、他人の内情に口出ししないでよ。あんたには関係のないことでしょう」
「……他人……?」
 琉生の眉がピクリと動く。声のトーンに重みが出て、彼は明らかに憤りを見せ美涼に詰め寄った。
「な、なによ……」
 その迫力に押され、美涼は逃げるように後退する。しかしそのぶん琉生も詰めてくるので距離は開かない。そうしているうちに美涼は中央に置かれたテーブルにぶつかり、足が止まってしまった。
「俺の前で、あれだけ自分をさらしておいて……よくもなんの関係もないような言いかたができますね……」
「そんなこと……」
 美涼は言葉に詰まる。確かに、胸に詰まり続けていた想いを琉生に話した。二日も続けて彼に抱かれて、信じられないくらい乱れた姿を見せてしまった。
 なんの関係もない……仲では、ない……
 だが……、美涼は、琉生とつきあっているわけではない。身体の関係は持ってしまったが、他人、という言葉で不機嫌になられるのとは違う気がする。
「冷たいなぁ……。ほんと、冷たいよ」
 皮肉交じりの軽口。美涼の前に立った琉生は、彼女の腰を両手で持つとテーブルの上へ座らせた。
「きゃっ……!」
 いきなりのことに驚いた美涼は声をあげる。慌てて下りようとしたが、その前に身体を押されテーブルの上に押し倒された。
「ちょっ……、なにっ」
「関係ないとかさー、他人とか、そんな冷たい言い方しないでよ。俺、美涼さんのことならだいぶよく知ってるのにー」
 両手首を掴まれ、顔の横で押さえつけられる。腰をずらしてテーブルから下りようとしたが、琉生が軽く上半身をのしかけてきたので身動きがとれなくなった。
 目の前に迫る軽薄な顔を睨みつけてやろうとする。しかし彼の顔は視線を合わせることなく横にそれ、美涼の耳輪を食み、チュッと吸って輪郭をなぞった。
「やっ……」
 琉生の唇が耳の裏から首筋へ下りると、ぞくぞくっとした小さな震えが走る。身体を固めて肩をすくめるものの効果はなく、彼の唇は再び美涼の耳を攻めた。
「や、やだっ……ぁっ……」
 厚い舌がぬるりぬるりとまんべんなく耳を這い、耳孔をくすぐる。顔を動かして逃げることもできないまま、美涼は足を焦らし、テーブルから落ちている膝下をばたつかせた。
「ほら……イイ反応……。美涼さんって、耳もすっごく感じてくれるよね」
「バカ……、離して……」
「キスだけで凄く感じるって……。そんなふうに感じたの俺が初めてだって、そう言ってくれるほど俺に気持ちを許してくれたって思ったのに……。冷たいにもほどがあるよ、ほんと」
「やめ……なさ……ぃ」
「だいたいさぁ、美涼さんって、どうしてそんなに年下が嫌いなの? 弟がうるさいから……とか、そんなくだらない理由じゃないよね」
 暴れていた美涼の足が小さく震える。琉生が耳元でクスリと笑った。
「分かったぁ~。美涼さんさぁ、ハジメテが年下だったんでしょう? で、あんまりイイ思いできなかったんだ? だから年下が嫌いなんだ?」
 話の流れと雰囲気で、彼はからかったつもりだったのだろう。けれど、今の言葉は美涼の心に突き刺さった。
 そのせいか身体の力が抜ける。足がおとなしくなったのをいいことに、琉生は彼女から片手を離し、太腿を撫でながらスカートをずり上げていった。
「ハジメテの男はヘタクソだったのかな? 痛くて泣いちゃった? それとも、主任と同じで、イヤだって言ってるのに変な場所で迫ってくるような最悪な男だったの?」
 彼の手はストッキング越しに内腿をじっくりと撫で、大きな手のひらが包むように足の付け根に上がってくる。
「じゃあ、主任にオフィスでやられちゃったときも、気持ち良くなんかなかったんでしょう?」
「や、めっ……堂……嶋くっ」
 やがてその手が中心部に触れ、美涼はビクッと震えた。
「イヤだったんでしょう……? 最低だと思ったんでしょう……。そうだよね、あのとき、美涼さん泣いてたよね。泣いて、『お願いだからやめて』って……。でも、主任はきかなかったろう? ……そんな、呆れてイヤになった男に、どうしてそんなふうに笑いかけてやれる!?」
「もうやめて!」
 耐えられない。美涼は押さえられていた片手を振りほどき、両手で琉生の身体を突き飛ばす。彼女の力が抜けていたことに安心し油断していたせいか、彼の身体は弾かれるように離れた。
 美涼は素早く身を起こし、テーブルから下りようとする。しかしすぐ琉生に両肩口を掴まれ、再びテーブルに押し倒されそうになった。彼の両腕を掴み、美涼は倒れまいと抵抗をする。
「や、やめてってば……、こんな所で……やめてよ」
「昨日も同じこと言ったよね……。車の中じゃイヤだ、って。でも、すぐにヨくなったじゃないですか。あれと同じですよ。……興奮しますよ、会社の中、っていうのも」
「バ……バカなこと……」
 美涼が押し返そうとする力など、琉生にはなんの意味もないように思える。それを証拠に、彼は平然と彼女の身体を押した。
 なにを言っても聞いてもらえないこの状況が、まるで半年前の“あの日”を思いださせる。美涼は急に悲しくなった。
「やめて……ねぇ……、や、だぁっ……」
 口元は笑うように上がっていても、琉生が怒っているのが分かる。なのに、その表情はどこか悲しそうで……。なのに必死で……。
 そんな彼を見ていると胸が痛い。苦しくて、――切ない……
「私がいやがることはしないって言ったじゃない! 会社では手を出さない、って……。なのに……、どうしてあの人と同じことするの!」
 耐えきれず叫んでしまった言葉は、声が詰まって泣き声に近いものになっていた気がした。
 そのせいなのか、それとも、美涼の言葉で自分が言った言葉を思いだしたのか、琉生の力が緩みふっと手が離れる。彼の身体を押し、美涼は今度こそテーブルから下りることに成功した。
 また腕を掴まれて引き戻されるかもしれない。美涼は警戒をするように、琉生を睨みつけながら少しずつ後退する。
「ねえ……、どうしてそこまで知ってるの……」
 声が震えて息が乱れるのは、今まで抵抗するのに神経を使っていたからだろうか。それとも、怒りとも悲しみとも形容できないこの感情のせいだろうか。美涼には、今それを判断する心の余裕がない。
「半年前のこと……、どうしてそんなに詳しく知ってるの? 私が……、泣いて、やめてくれって頼んだことまで……」
 琉生があの日のことを知っていると分かっても、なにかの用事でオフィスへ立ち寄り、偶然その現場に遭遇してしまったくらいのものだと思っていた。
 美涼が国枝と恋人同士であったことを琉生は知っていたから、痴話喧嘩をしていると思い、こんな所にいてはいけないとすぐに立ち去ったのだろうと……
 はっきりと聞かなくても、そういうことなのだろうくらいの気持ちでいた。
 けれど……
「見てたの? 全部」
 琉生は知っている。あれが、ただの痴話喧嘩ではなかったことを。
 美涼が、泣いて抵抗するレベルのものであったことを……
 本気で、いやがっていたことを――
「楽しかった……? 面白かった? ……興奮したの? 私が、恋人に犯されるところを見て……」
 琉生の表情が固まる。その顔を見た美涼の瞳がじわりと涙で滲んだが、彼女は彼を睨みつけることをやめなかった。
「……好きだとか……、嘘の軽口ばっかり……。いいことばっかり言って、かっこつけて、あっちにもこっちにも手を出して……。挙句には、女が無理やり犯られてるところを笑って鑑賞してたとか……。最低……、最悪だわ……」
「違っ……、美涼さん、俺は……!」
 そこまで言われれば、さすがに琉生もなにか言い返そうとしたようだ。しかし美涼は彼の言葉を止めた。
「あんたの言うとおりよ。私はね、初めてつきあった男が年下で、呆れるくらい散々な思いをしたのよ! だから年下は嫌いなの!」
 手を伸ばしかけていた琉生の動きが止まる。美涼は彼から顔をそらし、ドアへ駆け寄って鍵を開けた。
「本人の口から理由を聞けて満足? こんなくだらない理由で、年下は嫌いだなんて言ってるんだと思うと馬鹿らしいでしょう? でも、間違ってなんかいない……。口ばっかりうまくて、女にだらしがなくて、生意気で、なに考えてるのか分かんなくて……。あんたみたいな年下の男、……やっぱり大嫌いなのよ!」
 そう言い捨てると、美涼は資料室を飛び出した。


*次回更新2月8日予定






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