年下ですが貴女を好きになってもいいですか

エピローグ

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 正直なところ、あまり眠っていない。
 夜通し劣情に溺れた自分にも驚くが、もっと驚くのは琉生の体力だ。
 少々けだるげな美涼に対して、彼はいつもどおりシャンッとしている。
 朝食は二十四時間営業のファーストフードでとったのだが、美涼の倍は食べていた。
「あんた……、タフだよね……。知ってたけど」
 駐車場を出たふたりは、並んで本社ビルの正面入口へ向かう。美涼がハアッと息を吐くと、琉生は目をキョトンッとさせて彼女を見た。
「なにがですか?」
「……腰とか、だるくないの……?」
「ないですっ」
 きっぱりと言い切られ、この男の精力についていけるだろうかと、いきなり不安が湧き上がった。
 それを悟ったのか、琉生は美涼の頭を抱き寄せ、チュッと髪にキスをする。
「美涼さんを抱いて疲れるわけがないじゃないですかー。よけいに元気になりますよぉー」
 相変わらずの軽口が飛んできて、美涼は条件反射で琉生の手を叩き、振り払ってしまった。
 やってしまってからハッとするが、琉生はくすくすと笑っている。美涼はプイッと横を向いた。
「も……もうっ、そのチャラ男スタイル、やめたら?」
「いきなりやめたら、周囲に不審がられるじゃないですかー」
「そうかもしれないけど……」
「あっ、でも、『美涼さんが彼女になってくれたから、真面目にならないと嫌われるし』とか言えば、みんな納得してくれるかな」
「ちょっ、どうしてみんなにそんなこと言わなくちゃならないのよっ」
 驚いて琉生を見る。一緒にビル内へ入ると、ガランとしたエントランスに彼の声が響いた。
「だって、うちの会社、社内恋愛は自由だし、美涼さんは俺の大切な人だし」
 美涼は慌てて口元に人差し指をあてて立ち止まる。きょろきょろと周囲を見回す彼女の横で、琉生も合わせて立ち止まった。
「心配しなくても、まだ出社してきている人なんてほとんどいませんよ」
 琉生がクスリと笑う。彼の言葉どおり、エントランスに社員の姿はない。ぐるりと見渡せば、エレベーターホールなどにチラリと人影があるくらいだ。
 多くの社員が出社してくる時間より二時間も早い。閑散としているのも当たり前だ。
 こんな早くに出社したのは、理由があった。
 琉生も美涼も、明け方に家へ帰るにはどうも気まずさを感じる実家暮らし。それならいっそ、このまま一緒に出社してしまおうということになった。
 そうなると、どうしても気にしてしまうことが一点ある。
 会社は制服ではないので、昨日と同じ洋服を着ているということで周囲の目を意識してしまうのは美涼のほう。
 そこで、まだ誰も来ていないうちに出社して、ロッカーにスペアで置いてあるブラウスとカーディガンを使い、変化をつけることにした。
 同じく琉生も、ワイシャツとネクタイを変えればなんとかなる。
 最大の問題はぐちゃぐちゃになっていた美涼のショーツだったが、それはホテルの販売物リストからなんとかなった。
(ラブホに下着が売ってるとはね……)
 美涼は琉生から顔をそらし、両手を腰にあてる。なんとなく下着の線が気になり、指先でなぞってしまった。
 すると、その仕草を琉生がじっと眺めている。
「なっ……なによっ」
「いや……、ほどいてみたいなぁ……って」
「なにをっ」
「その、腰の紐。片方ほどいたら脱げるし……ってぇっ!」
 言葉の途中で、美涼はガンっと琉生の足を踏みつける。予定外に強く踏みすぎたような気はするが、いくら人通りがなくても、大きな声で言って欲しくはない話題だ。
「わ、分かってること、言わないでよ」
「だって、美涼さんがそんなの穿いてるのかと思うと滾るじゃないですか~」
「もう一回足踏むわよ」
「容赦ないなぁ、もう」
 おどけてはいるが、琉生はとても楽しそうだ。そんな顔を見ていると、もちろん美涼も楽しくなってくる。
 なによりも、こうして言い合いをしていることが嬉しい。
 琉生と見つめ合い、クスリと笑う。すると、誰かに背中をポンッと叩かれた。
「おはよう、おふたりさん。なーに? 早すぎる出社ね」
 心躍る朝にふさわしい、爽快な声。琉生が美涼の背後に向かって手を振るのと、彼女が振り返るのとが同時だった。
 そこに立っていたのは朋美だ。美涼は「おはようございます」と急いで頭を下げる。
「おっはよーございますーっ。あれぇ? 朋美さんも早いじゃないですか」
「副社長につきあって早く出社したのよ。琉生君と倉田さんは? 溜まってる仕事でもあった……の……」
 朋美の声は徐々に小さくなる。言葉を止めてふたりを交互に見ると、琉生に視線を止めてにやりと笑った。
「あーっ、そういうことか。気がつきそうな人が出社してくる前になんとかしたいもんね」
「はいーっ。そういうことなんですーっ。
 なんとなく状況を悟った朋美に、琉生は頭を掻いて照れてみせる。ふたりで朝帰りを完全に認めている彼をひと睨みすると、朋美に微笑ましげな顔をされた。
「どうしようもできなかったら、私の所へいらっしゃい。スペアのスーツ、貸してあげるわ」
「は、はい、すみません」
 美涼は再び慌てて頭を下げる。琉生の件があるからだろうが、今までまったく接点がなかった上役に親しげにされると、戸惑いは大きくなるばかりだ。
 立ち去る朋美に、琉生がにこやかに手を振る。頭を上げた美涼は、そんな彼の頬をぎゅむっと引っ張った。
「な……なんですかぁ~? 痛いですよぉ~」
「なんで、は、こっちのセリフよぉ。素直に認めてんじゃないわよ。恥ずかしいわねぇ」
「嘘ついたってしょうがないでしょー。ほんとのことだしー」
 美涼は琉生の頬から手を離し、プイッと横を向く。
「紐、ほどかせてあげないから」
「えっ!?」
 琉生がなにかを言いかける前に、美涼はスタスタとエレベーターホールへ向かう。もちろん、慌てて琉生が追いかけてきた。
「ごっ、ごめん、美涼さんっ。あとでパンケーキ差し入れるからっ」
「永美ちゃんのぶんもよ? あの子、随分とあんたを気にかけてくれてたんだから」
「はいっ、なんだったら、松宮課長にも差し入れます」
「どういうセンスよ? 課長はパンケーキより、どら焼きのほうが似合いそう」
 足を止め、エレベーターの呼び出しボタンを押す。美涼の指摘を聞いて、琉生が噴き出した。
「でも……」
 ボタンから手を離し、美涼はゆっくりと振り返る。彼を見つめ、ちょっと恥ずかしそうに微笑んだ。
「……どうせなら、堂嶋君と一緒に食べたいな」
 美涼の仕草になにかを感じたのだろう。琉生は一瞬驚き、嬉しそうにはにかんでから彼女の横に並んだ。
「じゃあ俺、今日、店を予約しておきます」
「ランチ?」
「まさか。美味しいパンケーキをデザートにしてくれるホテルのレストラン。ですよ」
「夜に?」
「もちろん」
 エレベーターのドアが開く。琉生に背を促され、美涼は無人の基内へ足を踏み入れる。
「そのあと……、紐、ほどかせてくださいね」
「やっぱりそこなの?」
 おどけて怒った声を出すが、優しく微笑む琉生と見つめ合い、ほわりと微笑み返した。
「……いいよ。琉生……」
 琉生の腕が美涼を包む。
 彼の腰に腕を回すと同時にエレベーターのドアが閉まり、ふたりの唇が重なった。


          『年下ですが貴女を好きになってもいいですか』
               *END*


*最後までお読みくださり、ありがとうございました!






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