恋桜~さくら【改稿版】

第五章・永遠の恋桜/3

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「だいたい、おまえは最初から知っていたのだろう?」
 そう聞かれ、わたしはドキリとした。いまさら隠してもしょうがない。観念して肩をすくめる。
「……知っていました……。だって、あんな立派なスーツを着てここを訪ねてくる人なんて、あの日は葉山さんしか思いつかなかったし……。でもね……」
 わたしは引き気味になっていた顔を上げ、背筋を伸ばして葉山さんを見る。
「家出したのは本当です。夕方には帰るつもりだった。……葉山さんに会うまでは……」
 葉山さんは黙ってわたしを見つめ、話を聞いてくれていた。その表情がとても綺麗。そんな場合ではないと分かっていても、わたしの頬は熱くなっていく。

「葉山さんのこと、知りたかった……。どんな人なんだろう、って。でも、わたしが“さくら”だと知ったら、警戒されて無理やり家へ戻されると思って……。それで……」
「それで……、“サキ”か……」
 わたしは首を縦に振ると、葉山さんから視線を外してうつむき、足元でさまよわせた。
「ごめんなさい……。怒っているでしょう? わたし、葉山さんを騙したんです……」
「“サキ”が嘘なら、あの夜、俺に言ったことも全部嘘か?」
「それは違う!」
 あの夜の気持ちまで、偽りかと誤解されたくない。わたしは葉山さんを見上げ、ムキになっていると思えるくらい必死に自分の気持ちを口にした。

「嘘じゃない! 葉山さんを好きになったのは本当! ……だから、あのとき、……サキのふりをしたわたしに、葉山さんの大切な言葉を言って欲しくなかった。――葉山さんのこと、好きで好きで、……自分でも信じられないくらい……」

 勢いに任せて言葉に出してしまってから、わたしはその内容に照れを感じて口をつぐんだ。
 それでも、まだ、この気持ちは伝えきれてはいない気がする。

 恥ずかしいという気持ちはもちろんあったけれど、わたしは、自分の心のままを言葉に出す。 

「一目惚れ、って……分かる? ……初恋なんです、わたしの……」

 どこまで言えば、この気持ちは伝えられるのだろう。
 葉山さんが好きで堪らないこと、会いたくて堪らなかったこと。

「会いたくて会いたくて堪らなかったの。毎日このワンピースばかり眺めて……。葉山さんが、選んでくれたものだから……」
「さくらっ」
 必死になっているわたしの言葉を、葉山さんが止める。というより、名前を呼ばれるとどうしてもドキリとして言葉がでなくなる。
「おまえ、その『葉山さん』という呼びかたはやめろ」
「え……、ど、どうして……」
 呼びかたを咎められ、わたしは戸惑う。すると、彼の大きな手が頭の上にのった。

「おまえもすぐに“葉山さん”だ。自分の苗字を呼んでどうする」

 その意味が分かった瞬間、さっきよりも頬が熱くなる。
 その頬に葉山さんの手があてられ、彼はにこりと微笑むと、わたしに意地悪をしたのだ。
「ほら、呼んでみろ。俺を、なんて呼ぶんだ?」
「あっ、あの……」
「俺の名前は『あの』じゃない。名刺を見て分かっているだろう。呼んでみろ、ほら」

 分かってる。分かっているけど……
 恥ずかしい……

 それでもわたしは、葉山さんに自分の名前を呼ばれたときの気持ちを思いだす。
 とても嬉しくて、幸せを感じた気持ちを……

「……一さん……」
「それでいい」

 合格が出る。
 とても嬉しそうな彼の笑顔にホッとする。そして、その合格と同時に彼はかがみ……

 わたしの唇に、自分の唇を触れさせてきた。

 触れるだけの、キス。
 それは、わたしの体温を一気に上げる。――そして。

「好きだよ……。さくら」

 ふいに囁かれたその言葉は、眩暈を起こしてしまいそうなほどに甘美な響きを持って、わたしの全身を包みこんだ。

「やっと、言わせてもらえた」
 さらに彼は、わたしを抱きしめたのだ。

 身体が熱い。このままこの熱で、とろけてしまいそう。
 わたしが動けないでいるのをいいことに、一さんは再度わたしの唇にキスを落とす。
「は、一さん……、い、いきなり……」
「ん?」
「いきなりされたら……びっくりしますっ……」
「予告すれば、何回してもいいのか?」
「そっ、そういうことではなくてぇっ」
 我ながら動揺しているのが分かる。
 だって、初めてなんだから。キスなんて……

「じゃあ、三回目だ」
 意地悪な声が囁く。
 でも、重なる唇は優しい。

 なんだか、からかわれているみたいで悔しい。
 唇が離れると、わたしは少し怒った顔で彼の唇をつんっとつついた。
 一さんはその手を握り、また唇を近づける。
「あの夜だって我慢したんだ。もう、我慢させないでくれ。おかしくなりそうだ」

 頬どころか、全身が熱くなった。
 意味深すぎて、どうしたらいいのか分からない。
「四回目……」
 でも、イヤじゃない……

 そして、四回目のキスが落ちる……

 優しく触れるだけ。
 重なるだけの、とても柔らかなキス。
 それでもそれは、わたしの気持ちを、そしてわたしの身体をとろかすには充分だ。
 
 唇が離れる。わたしの目に映るのは、引きこまれてしまいそうなほど素敵な微笑みをくれる一さん。
 そしてうしろに見える、満開の桜。
 一面の、薄桃色……

「さくら、俺も、この一週間、……ずっとおまえに会いたかった」
 一さんが、その広い胸の中にわたしを抱き入れてくれる。彼の力はとても強くて苦しくなるくらい。でも一さんに抱きしめられていることが嬉しくて、わたしは笑顔でクスクスと笑う。
「一さん、苦しいです」
 すると一さんは、ちょっと怒った声を出した。
「俺を騙した罰だ、馬鹿っ。文句を言うな。離せったって離してやらないからな」
 そう言ったあと、とても優しい声で囁く。
「一生……な……」

 ――風に乗って、桜の花びらが雨のように舞い落ちた。
 わたしの心の中に、一さんの言葉が沁みこんでいく。
 一生、という言葉が……

 一さんの背に腕を回し、わたしも彼に抱きついた。
 幸せで幸せで堪らない。
 それはきっと、いつまでも収まらない笑顔に現れていただろうと思う。

 一生、離さないでね。
 一生、離れないから……

 風に舞う桜の花びらは、わたしの上に、そして一さんの上に降り注ぐ。
 彼に出会わせてくれた御神木。
 わたしの恋の始まりを見守ってくれた、桜の樹。

 わたしが桜を見上げていると、一さんはわたしの腰を両手で持ってそのまま持ち上げた。まるで子どもの“高い高い”みたい。
 持ち上げられた状態で、上から彼を見おろす。まるで、出会ったときのようだ。
「ここから、桜を一本、もらっていこうか?」
「桜を?」
「俺とさくらが出会った大切な思い出の場所だ。その思い出を、いつでもそばに置いておけるように」
「一さん……」
 嬉しくて嬉しくて、わたしは両手を一さんの肩に置き、綺麗なその瞳を見つめる。
「一さん、大好き」

 桜の花びらが、わたしたちを包むように舞い落ちた。
 そしてわたしは、桜の中へ溶けこんでいってしまいそうなほど幸せな言葉を、一さんの口から聞く。

「好きだよ。さくら」

 わたしに、夢を見せてくれた桜。

「さくら……」
 わたしに、恋を教えてくれた、一さん。

「一さん……」
 どちらからともなく、唇が重なる。

 桜の花びらが舞い踊る。

 夢のように。

 恋のように。

 触れ合う唇と、同じくらい優しく。

 桜……。さくら……

 ――この恋とともに、いつまでも……――



          『恋桜~さくら【改稿版】』
               END

*最後までお読みくださり、ありがとうございました!





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