2017・短編集

颯都が日本のお正月を堪能したようです!

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2016年9月に刊行されました、エタニティブックス・赤『焦れったいほど愛してる』のお正月用番外編です。
結婚して初めてのお正月を迎えた颯都と小春。
久々の日本のお正月に颯都か期待するのは……

お楽しみいただけますと嬉しいです。

【カテゴリ】
焦れったいほど愛してる お正月 日本 イタリア 夫婦 甘い いちゃいちゃ

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「日本の正月は、静かでいいよなぁ」
 颯都がそんなことを呟いたのは、年が明けた一月一日の夕方のことだった。
 外出から帰ったばかりで、コートも脱がずドサッとソファに身体を落とした彼を見て、小春は小首をかしげる。
(静か? だった……?)
 マンションの部屋で二人きりになった今だからこそ周囲は静かだが、少し前まではまったく静かではなかった。……と、小春は思う。
 結婚して、初めてのお正月。
 両実家への挨拶は欠かせない。
 午前中は小春の実家へ。そして午後からつい先程までは、蘆田家に顔を出していた。
 颯都の両親は、離婚しているとはいえ不仲が原因ではない。年末年始は、デザイナーである颯都の母親も蘆田家ですごすほどだ。
 そこには当然のように颯都の兄や、小春たちと同じく昨年結婚をしたエリカとその夫もいた。
 エリカの夫は生粋のイタリア人だ。
 正直、「ここは日本だから!」と小春を苛立たせた帰国直後の颯都より、テンションは高い。
 それに慣れているのは、エリカと颯都。そして、外国での仕事が多い義母も平然としている。
 義父や義兄は賑やかになった家族を微笑ましげに見守るだけ。
 小春ひとりが、この雰囲気に戸惑いつつ、馴染もうと必死だった気がするのだ。
「静か……って、ああ、初詣のこと? それでも結構にぎわってたよ」
 自分のコートを脱ぎ、バッグと一緒にダイニングテーブルの椅子に置くと、小春はまっすぐキッチンへ入る。
 コーヒーの用意をしながら、ソファの背もたれに両腕をかけて天井を仰ぐ颯都に目を向けた。
「私さぁ、年明け早々に初詣に行ったのって初めて。神社で新年を迎えるって、特別感あるね」
 除夜の鐘を聞きながら神社へ向かった二人。
 お参りをして、おみくじを引いて、お守りを買って。寒空の下、甘酒をふるまってくれた神社の好意に甘え、とても良い気分で帰宅をした。
「帰国して最初の初詣が小春と一緒だなんて、去年までの俺に教えてやりたいくらい最高だ」
 嬉しそうな颯都の口調にドキリとする。
 そんなの、小春だって同じだ。しかし、一年前の自分に、来年は颯都と結婚して初めてのお正月を迎えてるよ、などと言っても信じないだろう。
「年の締めには除夜の鐘。年明けとともに響く筝曲(そうきょく)。あの曲を聴くと『日本の正月だ!』って感じるよなぁ」
「やだ、颯都。しみじみしちゃって」
「だから言っているだろう。こんな静かな年明けを迎えれば、しみじみもするって」
「大袈裟ね」
「年明け早々、でっかい花火も鳴らなきゃ、手持ち花火を向けて迫ってくるやつもいない。歩いていても足元で爆竹が爆発することもない。奇声と歓声が聞こえない新年なんて、ほんと久しぶりだ」
 日本のお正月を感慨深げに語っている颯都を苦笑いで見ていた小春だったが、彼の話に笑いが固まる。淹れかけのコーヒーを放置したまま、いそいそとソファに近づいた。
「な……なにそれ……。花火、とか、爆竹、とか」
「ん? イタリアの年末年始。すごいぞー、でっかい花火は上がるし、みんな手持ち花火を振り回して大騒ぎ。爆竹の音で耳がおかしくなるかと思う」
「さ……さすが……、イタリア……」
 それが正しい褒め言葉になるのかはわからないが、小春はつい握りこぶしを作って力説してしまった。
「なんだよ、さすがって」
 ぷっと噴き出した颯都が小春の握りこぶしを掴み、彼女の腕を引く。たやすくぽてっとソファに身体が落ちた小春は、そのまま颯都に抱き寄せられた。
「小春と新年を迎えて、初詣に行って、雑煮食って、あけましておめでとーって実家巡りして。……なんか、ほんとに日本の正月って感じだ」
「颯都はイタリア暮らしが長かったもんね。久々の日本のお正月、堪能しなくちゃ」
「んー、あとふたつ、堪能してないものがあるな」
「ふたつ?」
「うん」
 にこりと微笑むと、颯都は小春が来ているニットのVネックに指を引っ掛ける。
「小春の晴れ着姿、見ていない」
 ちょっと艶っぽい目で顔を近づけられて、ドキリとする。今日は二人の実家に行くので、動き回っても気にならないように、小春は洋服にしていたのだった。
 着物は、三日に予定されている、デザイナー関係者の新年パーティーで着ることになっている。
「明後日は着るよ」
「じゃあ、明後日、帰ってきたら帯クルクルして脱がせてもいい?」
「なにっ、その悪代官風」
 ちょっとドキリとしつつケラケラ笑うと、Vネックで引っ掛かった指が胸の谷間をなぞる。
「こら……、颯都」
「もうひとつ……」
「ん?」
「日本の正月といえば……、これ……」
「お餅搗きとか?」
「小春突き、かな」
「は?」
「ヒメハジメ、しよ? 小春」
 小春は目を見開く。颯都の瞳の中に、驚き慌てる自分が映った。
「ばっ……馬鹿。なんなのよ、その小春突き、ってぇっ。……っていうか、その言いかた、なんかっ、あからさまっ」
 照れと動揺で思わず颯都の身体を押すが、反対にそのままソファに押し倒された。
「駄目? ヒメハジメってさ、なーんか憧れてたんだよなー」
「ばっ、馬鹿ぁっ」
 颯都の唇が耳から首筋に落ちてくる。ゾクゾクした感触に襲われながら、小春は離された手を颯都の頭に回した。
「……久々の日本のお正月、堪能できそう?」
「小春次第かな」
 ニットの裾がまくれ、颯都の手が素肌に触れる。徐々に胸へと上がってくる指の甘い軌跡を感じながら、小春は颯都のコートを彼の肩から落とした。
「堪能して……」

「そうそう、ヒメハジメってさ、一月二日の行事らしいから、このまま明日の朝までしてような」

 ――二日に予定が入っていなくてよかった……
 そう思った小春であった。




                   * END *






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