2017・短編集

100時間後のふたり

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追いつめられた二人は、絶望の中で身体を重ねる。
けれど……

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廃墟 空 追いつめられた二人 欲望 極限状態の性欲 ちょっとだけSF ハッピーエンド? バッドエンド? R18 短編

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「……百時間後……、どうなってるんだろう……」
 彼女の呟きは、ごく単純なものだった。
 百時間。いわゆる四日と四時間後、彼と彼女はどうなっているのだろうという問い。
 彼は嗤う。――正確には、口元を歪める。
 そんなことを問うのも無駄だと言わんばかりに。
 そうしながらも、彼は答えを口にする。なにかを話したかったからだ。声を出すという行為でもしなければ、今の現実に押し潰されてしまいそうだった。
「……一緒だよ……」
 逃げこんだ廃ビルの上階。冷たいコンクリートの壁に寄りかかって床に座り、彼は隣に寄り添う彼女の手を握る。
「百時間たったって、一緒だ……」
「……無理よ」
 彼女の声は無気力で、そして失望に満ちている。ここまでともに逃げてきた、愛する彼の言葉に同調しようとはしない。
「もうすぐ、アイツが来る……。誰にも止めることなんてできなかったのよ……。こんな場所に逃げたって無駄。……アイツが来れば、私たちだっておしまいよ」
「手を握っていればいい。こうやって」
 彼は強く彼女の手を握る。身を寄せる彼女を見つめ、そして、正面にある小さな窓から外へと視線を馳せた。
 見えるのは、熱された鉛色の空。
 あの忌々しいグレーの向こうには、きっと素晴らしい夕焼けがあるに違いないのに。
 けれど、そんな美しい光景を一緒に見ることは、きっともう叶わない。
「握っていても……、きっと引き裂かれるわ。……私たちは……もう……」
 絶望しか口にしなくなった彼女の言葉を、彼は自分の唇でふさぐ。
 舌を絡めあい、吸いあう音が、狭い空間に響いた。
「ふぅ……ンッ、……ぁっ……」
 くちづけの合間に零れる声は、今の状況を忘れさせるほど艶っぽい。
 絶望のあまり自棄になりかけていた彼と彼女の身体が、徐々に熱を帯びてくる。身に迫る危機を踏みつけて顔を出す情欲は、愚かなようで、恐怖を忘れるための逃げ道にもなった。
「そうだ……、繋がっていればいい……」
 彼は、そう言いながら彼女とともに床へ倒れる。衣服の上から柔らかな身体をまさぐり、事を急ぐように細い両足を大きく広げた。
 彼女も、特に抗うことなくそれを受け入れる。彼の背に手を回し、自ら腰を上げた。
「ずっと繋がっていればいいんだ。そうすれば、離れられない」
 下着を取り去るのももどかしく、二人は身体を繋ぐ。
 彼の怒張がぐりっとねじ込まれた瞬間だけ、充分な準備ができていなかった彼女の秘窟がざわめいた。
 突然の挿入による痛感はすぐに快感に変わり、彼女に愉悦を与え潤わせる。彼がゆっくりと動き始めると、彼女の両足が艶めかしく蠢きながら彼の腰に巻きついた。
「あっ……あぁん……、気持ちい……ぃ……」
「そうだ……、気持ちいいままでいよう……。このまま、ずっと……」
「あっ……あっ! ハァっ……ぁ、ずっと……」
「アイツがきても、離れない……絶対」
 上体を起こした彼は、彼女の腰を両手でかかえて強く腰を打ちつける。彼女が足を巻きつけているせいで大きな動きにはならないものの、そのぶん強く熱い肉塊が蜜窟をえぐった。
「あぁあっ……、きもちぃっ……、オク……ああぁ、もっと……!」
「気持ちいいのか……? おまえ、オクまで挿れてもいつも息を止めるだけだから、苦しいのかと思ってた」
「ちが……違う……、ほんとは……気持ちい……い……あぁっ!」
 初めて聞いた本音だったかもしれない。あまり自分の欲望を口にしない女なのだと思っていた。
「もっと……、もっと、奥まで……してぇ……!」
 彼女の希望に応えるように、彼はグイグイ内部へ侵食していく。穿てば穿つほど彼女の嬌声は大きく淫らに変わり、彼は煽られる自分を感じながら彼女を揺さぶり続けた。
「やぁぁんっ……こわれ、そう……ンッ、あぁっ……いいっ……!」

 どうせなら、壊してしまいたいとも思う。
 二人には、もうあとがない。百時間後、二人の肉体が繋がって残っている可能性はゼロに等しいのだ。

 彼女をうつ伏せにすると、腰を持ち上げて激しく突き上げる。喉を反らし、コンクリートを指で掻いて、彼女は獣になり下がり聞いたことのない淫声で啼き狂った。

 彼の上に跨り、腰を振りたて、自ら乳房を揉みしだいて悶え動く。 
「ああっ……! イイっ……あんっ、イクっ……またイクっ……!」
 宣言するとおり、何度達しても彼女の快感は終わることがなく、また彼も、爆ぜても爆ぜてもすぐにその屹立を火杭に変えた。

 精神が極限状態にあるなかでのセックスは、最後の最後に、二人の欲望を燃焼させる。

 二人はそのまま交わり続けた。
 一日、二日、三日……
 最初に彼女が言った、百時間目が近くなるまで。

 ――――電子音が聞こえる。
 ジジジッ……という、ノイズ音だ。
 なんの音だろう。
 彼も彼女も、もう頭がぼんやりとしていた。
 がむしゃらにお互いを求めあい、何時間がたったかもわからない。
 だが、もうすぐ“終わり”が来るということだけはわかる。

 アイツが、やってくる……

 窓の外は濃い鉛色。
 この鉛の向こうには、まだ綺麗な朱色の空はあるのだろうか。

 コンクリートの床に、身を横たえる身体がふたつ。
 彼と彼女は、ぼろ布になった服を身体に貼りつけたまま寄り添いあう。
 交わる力はもうなかった。彼は彼女の身体に腕を回しているだけで精いっぱいだし、彼女は彼のそばに寄り添っているだけで精いっぱいだ。
「……眠い……」
 かすれた声で、彼女が呟く。彼は視線だけを彼女に落とし、それに応えた。
「……眠ろう……。一緒に……」
 自分では笑ったように思ったが、口元を上げる筋力も残ってはいなかったかもしれない。

 最期の最期に、欲望の限りを貪りあって、二人で眠る。
 最高の幸せだ。

 眠っているうちに、アイツはやってくるだろう。
 でも、きっと、ふたりは……


 ――――低いノイズをたてていたのは、床に転がったまま忘れられていたライト一体型のラジオだった。
 途切れ途切れ、そこから、泣き声にも似た叫びが聞こえてくる。

『……せき……が……、――隕石が、衝突の軌道から外れました! ……地球は……人類は、救われたのです……!!』

 数日後には、空は綺麗な茜色を取り戻すだろう。

 二人がそれを見ることは……




               END





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